• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第4回 『モノが捨てられず、困っています』

 

「謎の新企画発表会」スペシャル-PART1

今回からしばらく、連載立ち上げ時に行われたイベントの模様をお伝えします。

 

▲イベントの準備にいそしむスタッフと、入念にチェックする春風亭一之輔師匠とキッチンミノル氏。

 

 

 2018年4月5日。小学館本社にて、この新連載立ち上げイベント「春風亭一之輔×キッチンミノル 謎の新企画発表会」が開催された。講堂および隣接する会議室をぶち抜いて作られた会場に、お客さんが続々と集まってきている。楽屋にて二人でぼんやりしていたところ、編集担当の高成さんが桜餅を持って入って来た。

 

 

一之輔師匠(以後、師): あっ、桜餅ありがとうございます。

 

編集の高成さん(以後、タ):季節ものですからね。関西風の道明寺と関東風の長命寺、両方ご用意してみました。

 

師:季節は過ぎていますけどね、東京はすっかり葉桜だから。惜しいね。

 

キッチンミノル(以後、キ):差し入れもらっておいて小言ですか……

 

師:小言じゃないよ。事実を言っているだけ。事実を!

 

タ:……はい。すみません。

 

(高成さん退室)

 

師: そうそう。ところでさ、「謎の新企画」って期待させ過ぎじゃないの? この企画は酒呑みながらやるぐらいがちょうどいいよ。30人くらいを相手にさ。

 

キ:そうですよね……

 

師:それで今日って何人くらい集まってるの?

 

キ:200人くらいみたいですよ。

 

師:200人!? 集めすぎだよ。そんな大した企画じゃないんだからさ。

 

キ:……はぁ。

 

師:人生相談なぁ……。どうなっても知らないよオレは。文句は小学館に言ってほしいね。 あー、打ち上げで美味い餃子食べたい。焼きそばとかさ。

 

キ:いやいや、テンション上げていきましょうよ!!

 

師:わかってないね。オレは「やるときはやる男」なんだよ。

 

キ:……

 

タ:(楽屋の扉が開いて)あのー…すみません。そろそろ開演のお時間です。

 

師:もう? ……ちょっと、トイレ行ってくるわ。

 

キ:今までさんざん行ける時間あったのに……

 

 

 

師に問う:
モノが捨てられなくて、困っています。他人がみたらガラクタなんだけれど、コレクター心で手放したくない。でも部屋は狭いし、トランクルームを借りるお金もないんです。どーしましょう? (匿名/女性)

 

 

 

キ:一之輔さんは、コレクションしているものってないんですか?

 

師:あるよ。高校生の時なんか落語のテープをいっぱい集めたね。春日部高校の近くにロビンソン百貨店というのが当時あって、その横に春日部市立の図書館があるの。一回でCDやテープを6本まで借りられたんだよ。それで6本借りたら、野田のジャスコの新星堂に行って、一本100円のよくわからないメーカーの空テープを買って、それをコンポでダビングするのが日課だったから。

 

キ:いい話だなぁ。「春風亭一之輔」誕生前夜の物語ですね。

 

師:図書館の音源、全部ダビングしたもんね。

 

キ:やりすぎでしょ!!

 

師:いまだに家にそのときのテープがいっぱいあるけどさ、聞かないんだよ。ダビングしたことで満足しちゃってさ。いま、すげー邪魔だもん。引っ越しのたびに重たいし。

 

キ:邪魔なんだ。じゃあ、捨てればいいじゃないですか。

 

師:そうなんだけど、捨てられないんだよね。だから、この人の気持ちはわかるよ。

 

キ:わかりますか。

 

師:うーん。だけど、この人さ、「部屋は狭いし、トランクルームを借りるお金もないんです」って書いてあるけど、土日にバイトすればなんとかなるんじゃないの?

 

キ:はぁ……

 

師:なんとかなるよ。本当にその“ガラクタ”が大事だったら、それくらいのことはしてもいいんじゃないかな。 コレクター心で手放したくないものって、この人にとって大切なものなんでしょ? きっと。

 

キ:まぁ、そうでしょうね。

 

師:だからこの人はさ。 

 

キ:はい。

 

師:思い切って捨てた方がいいんだよ。 

 

キ:うんうん。

 

師:コレクター心をね。

 

キ:えっ? ……ええーっ!? 捨てるのそっちッ!!

 

師:だって、コレクターって「幸せ」ではないでしょう。

 

キ:すみません。ちょっと私の理解力を超えてしまったのですが……

 

師:そう?

 

キ:じゃあ、落語のテープを集めていたときは「幸せ」じゃなかったんですか?

 

師:うん、「幸せ」じゃなかった。たくさんの音源をダビングするとかラベルを綺麗に書くとか、そういうのに満足していたから。つまり、最初はたくさん落語を聴きたかっただけだったのに、気づいたら集めることに…

 

キ:満足していた。

 

師:そう。だから、そこから離れて当時を振り返ってみると、「幸せ」じゃなかったなぁって思う。 ……それに、この人はもっと、そいつらのことをちゃんと考えてやったほうがいいと思う。

 

キ:す、すいません。「そいつら」とは?

 

師:コレクションされたやつらのことだよ! そいつらの目線になって考えたらさ、ガラクタみたいにガチャガチャ集められて、そいつら幸せかな?

 

キ:うーん、どうでしょう。

 

師:「幸せじゃない!」でしょ!! 映画『トイ・ストーリー』のウッディみたいな気持ちになってごらんなさい。

 

キ:ウッディみたいにですか……

 

師:そう! 考えてごらん、コレクションされる側の気持ちを。

 

キ:ただ、さっきから師匠はガラクタガラクタと言ってますけど、それはこの方の謙遜で、本当はコレクションをケースなんかに入れたりして、もう少し大事に飾ってあるんじゃないんですか?

 

師:……いや。

 

キ:いや!?

 

師:大事に飾るような人だったら、すでにトランクルームを借りています。中途半端だから、こうなっているんです。この人は欲張りなんですよ。欲張りなうえに努力していない。

 

キ:ひ、ひどい。

 

師:だからさ、捨てちゃえばいいんだよ。

 

キ:コ、コレクター心を…ですか?

 

師:そう。そもそもコレクター心さえ捨ててしまえば、ガラクタなんかを集める必要がなくなる。そしたら部屋も狭くならないし、トランクルームも借りずに済む。つまり土日のバイトなんて無理してする必要はまったくない!…というわけだ。

 

キ:おおーッ! ……ただ、

 

師:ん?

 

キ:最後のバイトの件は、師匠が言い出したんじゃ……

 

師:相変わらず真面目だねぇ。この際、どっちが言い出したとか問題じゃないんじゃないの? 理屈はいーんだよッ(キレ気味に)!!

 

キ:ヒィ〜〜ッ!

 

 

師いわく:


 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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