• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第6回 『話の口火が切れず、聞き役となってしまいます』

 

「謎の新企画発表会」スペシャル-PART3

前回に引き続き、連載立ち上げ時に行われたイベントの模様をお伝えします

 

▲イベントの後半では落語を一席。演目は「千早振る」でした。

 

 4月5日(木)に小学館の講堂で開催された新企画発表会。早くも中盤にさしかかろうとしている。お客さんの目には、ぐだぐだトークが続いているように見えるかもしれないが、ゆるそうな会話のなかから金言を掘り出そうと、こっちは必死である。さて、本日3番目の質問はいかに……?

 

一之輔師匠(以後、師):ところで、題名の「いわく」だけれども、本当は「のたまわく」が正しいんだよね?

 

キッチン(以後、キ):そうですね。普通は孔子さんが“おっしゃった”っていう意味で「子、のたまわく」ってなります。

 

師:「いわく」だと?

 

キ:「言った」って意味です。まだまだ若手の一之輔師匠が“おっしゃった”だと……

 

師:大げさすぎるよね。

 

キ:ですよね。だからこその「いわく」です。師匠くらいのレベルなら「いわく」あたりがちょうどいいのかなと。それに「いわく」と「ふわく」の語呂合わせ的な思惑で。

 

師:…………

 

【編集部注】…ふたりはこんな会話をしていましたが、「曰く」と書いて「いわく・のたまわく」どちらの読み方もあります。また、「孔子のことばのみ“のたまわく”と読み、他は“いわく”と使い分ける」という説もあるようです。

 

 

師に問う:
複数人であーだこーだしゃべっているときに、なかなか口火を切ることができず聞き役となってしまいますが、どうしたものでしょうか? (匿名/男性)

 

 

師:例えば、飲み会とか……

 

キ:井戸端会議とか、お昼休みとか……

 

師:みんなが集まってワイワイ言いあっている場で、自分も喋りたい…と。どうやって間に入っていけばいいのか…と?

 

キ:そういうことです。

 

師:すごく気持ちはわかりますね。

 

キ:と言いますと?

 

師:噺家ってお喋りな人が多いんですよ。バカみたいに楽屋でずーっと喋っていてさ。打ち上げでもさ、5~6人集まるとずーっと喋ってんだよ。

 

キ:いいなぁ。

 

師:エピソードトークのオンパレードなんですよ、噺家は。そのなかに入るとオレなんかはさ、言えないほうだから。

 

キ:全然なにも話さないんですか? それとも「なにか言いたいけど言えない」みたいな気持ちなんですか?

 

師:面白い人たちばっかりだと、その人たちの話を聞いているだけで十分。お金を払いたいくらい。……噺家の場合は、そういう感じになる。

 

キ:でも、それは噺家の場合であって…

 

師:そうじゃないからね、この方の場合は。とはいえ、ときにはそうでもない奴がいるわけ。オチがない奴とか、「それ知ってる話だから」…みたいな奴がいるんだよ。そういう人が5人中3人くらいいるとイライラしてくるから、ならば!…ってな感じでいこうとする場合もある。

 

キ:この方の場合は、そっちに近いんでしょうね。

 

師:でもさ、この方が常々こういう状況になるってことは、それが、この方の立ち位置なんじゃないの?

 

キ:そういうキャラクターってことでしょうか。……僕なら、そういう場にはこの人みたいな聞き役もいて欲しいですけどね。

 

師:そこ! 積極的に参加はしていないかもしれないけれど、ムードメーカーになっているって人がいるとおしゃべりの場って盛り上がるんだよ。この人の反応が欲しいから、この人に話を聞いてもらいたいからついつい話しちゃう…って人いるでしょ。

 

キ:いますね。この人さえ笑ってくれればそれでいい…みたいな人って。

 

師:もしかすると、この人はそういう役目の人なのかも。

 

キ:いわゆる「聞き上手」なのかもしれませんね。

 

師:いつもみんなが“あーだこーだ”と盛り上がっているということは。

 

キ:……でも…

 

師:でも?

 

キ:内心では喋りたいんですよね? この人は。

 

師:……

 

キ:ということはですよ。その場が盛り上がれば盛り上がるほど、この方の心の中は、どんどん寂しくなっていくんじゃないでしょうか?

 

師:……うーん、だけどさ。

 

キ:はい。

 

師:この人がそこで無理をすることによって、その場のバランスが崩れていく場合もあるからね!

 

キ:バランス!?

 

師:無理しないほうがいいんじゃないんですか。喋らないあなたがいて、周りは盛り上がっているわけだから。あなたは聞き役なんです、おそらく。 ……別にお金は発生していないわけでしょ、その会は?

 

キ:お金? 普通はそうでしょうね。

 

師:ひな壇芸人を見てごらんなさい。

 

キ:ひ、ひな壇芸人??

 

師:笑いの猛者どものなかに自分から入っていかなきゃいけないんだよ、ひな壇芸人は。本当に辛いよ。それを考えたらさ、この人はそうじゃないだけありがたく思ったほうがいいよ。

向いてない、ひな壇芸人ほど辛い人はないからね。

 

キ:そうなんですね。

 

師:ナイツの塙さんと話したときに、「どう考えても僕はひな壇芸人に向いていないけれど、仕事の都合上ひな壇に上がらなければいけないときもあって、そういうときは本当に辛い」って言ってたよ。

 

キ:あの塙さんでさえ……

 

師:「ときには“オレがオレが”って割っていかないといけない。自分ではそういうのが得意じゃないと思っているのに、前に出ていかなきゃならないわけだから、本当に辛い」ってさ。

 

キ:そうなんですね。

 

師:そこにはさ、事務所の期待を背負い、ナイツという看板を背負い、お金も関わってくるんだから。それに比べたら、幸せだと思うよ。

 

キ:幸せ……?

 

師:だって、この人はさ!

 

「ひな壇芸人じゃないんだから。」

 

キ:ええーッ!? そりゃそうですけど。

 

師:ありがたく思わなきゃ。

 

キ:「ひな壇芸人じゃなくてよかった」と……だいぶ大きな相手と比べましたね。

 

師:そう、比べるのは大事。そして無理は禁物。

……この人が聞き役であることで周りが盛り上がっているんだから、すごいことですよ。みんなの話が盛り上がっているときには、その話をとことん楽しむ。

 

キ:聞き役として。

 

師:そう。それで、場が盛り下がってきたときに、いよいよ反撃の口火を切ればいいんだと思う。

 

キ:フッと会話が途切れることってありますもんね。

 

師:そうそう。会話の火が消えかかってきたら……そこで!

 

キ:いよいよ…

 

師:口火を切る!!

 

キ:あはは、いますね。そういう人。口数は少ないのに、いいところ全部持っていってしまう人!!

 

師:憧れるよね。

 

キ:憧れます。……ところで、師匠はひな壇のオファーが来たら、その仕事を受けるんですか?

 

師:一度は受けるかもしれないけど……無理だろうねぇ。

 

キ:以前、サンジャポには出てましたけど?

【編集部注】サンジャポ…「サンデー・ジャポン」。TBS系列で毎週日曜10時から放映中。

 

師:出たけどさ、寂しいんだよあそこ。ひとりで着物姿でポツンとしていると、誰も口をきいてくれないんだよ。

 

キ:あはは、場違いな人が来ちゃった…みたいな?

 

師:そうそう。左からテリー伊藤さん、オレ、みちょぱ…って並びで座っていたんだけど、コマーシャルの間ずっと、テリーさんとみちょぱが、オレを飛び越して会話しててさ。まんなかで首振って、まるで卓球のラリー見ているみたいだったもんなぁ……

【編集部注】みちょぱ…池田美優。1998年生まれのファッションモデル。

 

キ:寂しいっスねぇ……そのとき、口火は?

 

師:切れなかったね。会話が切れなかったから……

 

 

 

師いわく:


 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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