• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第7回 『私は話がつまらない(ようです)』

 

「謎の新企画発表会」スペシャル-PART4

⚫連載立ち上げ時に行われたイベントの模様をお伝えする特集、今回がいよいよ最終回です。

 

▲たくさんのご来場ありがとうございました! 終演後、お客さまにはおみやげの特製クリアファイルをお配りしました。

 

 4月5日、小学館本社で行われた新連載企画発表会が終わり、スタッフの皆さんと打ち上げ。そして一之輔師匠の「いくぞ!」の号令とともに、いつもの3人は二軒目へ。打ち上げという名の反省会はまだ続いていく……

 

一之輔師匠(以後、師):……とりあえず生を3つ。それと餃子2人前。チャーハンは大盛りね。それに酢豚に回鍋肉。とりあえず、それでお願いします。

 

キッチンミノル(以後、キ):たった今、パスタとかたくさん食べたばかりなのに、結構注文しましたね。

 

師:おしゃれなイタリアンもいいんだけどさ、ひと仕事終えたあとは「食ったー!」という実感がほしくなるんだよね。

 

キ:なるほど。餃子とかってニオイからして充実感みたいなものがありますもんね。

 

編集の高成さん(以後、タ):……キッチンさん、今日のお客さんのアンケートです。さっそく預かってきましたよ。

 

キ:うわー、見たいような見たくないような。

 

師:どれどれ?(キッチンの手からアンケートを奪う) ……ふーん、あらー、キッチン! これ見てみな、ほら。

 

キ:なんですか?

 

師:「キッチンミノルはつまらない。二度と来たくない」って書いてあるよ。

 

キ:え……

 

タ:どれどれ? あっ、ほんとだ!

 

キ:高成さん、イヤな人だなぁ。いま知ったみたいな反応して!

 

タ:いや、私も読まずにすぐ持ってきたもので……いやー、まいったなぁ。

 

キ:急に胸の真ん中が、キューってなってきました。

 

師:真摯に受け止めたほうがいいよ。

 

タ:でも私はすごく面白かったですよ。キッチンさんには独特の間があるから。

 

キ:なんか褒められている気がしないっス。てか、自分は別に面白くなる必要はないですから!!

 

タ:二人の会話のオフビートな雰囲気を皆さんにも楽しんでほしかったんですが、「ぐだぐだ」と受けとめたお客さんもいらしたということですね。

 

キ:そんなぁ……だいたい、こういう辛辣な回答は出演者に見せないように気をつかうのも編集の仕事なんじゃないですか、高成さん!

 

タ:申し訳ありません……(と、うつむくが口元がほころんでいる)

 

師:キッチン、が・ん・ば・れ。

 

キ:…………

 

タ:大丈夫ですって!

 

キ:なんか、慰められれば慰められるほど凹むんですけど……

 

師:キッチン! そういうときはどうするんだっけ?

 

キ:落ちこんだときは……あっ! 「カロリーの高いものを食べる」でしたっけ!?

 

師:それから?

 

キ:自分が自分の「パパ」に…

 

師:なれ! …だろ。

 

キ:はい。

 

師:お姉さん。この人に唐揚げと海老チリを。僕にはハイボールね。

 

キ:あ、すみません。ありがとうございます。

 

師:いやいや。こちらこそ、ごちそうさまです! …だよ。

 

キ:…ん? なんで? …ですか??

 

師:だって、今日はキッチンがオレらの「パパ」なんだから。

 

キ:なんで私が“みんなの「パパ」”にならないといけないんですかッ!?

 

師:そういう「師のことば」だったでしょ!

 

キ:いやいや、違うでしょ!! 高成さん、なんとか言ってくださいよ!

 

タ:……ごちそうさまです。

 

キ:高成さんまで!! 

だったらせめて自分の分は自分で注文させてほしかった……

 

師:ハイボールもう一杯お願いしまーす!

……それにしても「二度と来たくない」とか言われてもなぁ…

 

キ:……

 

師:だけどさ、この人そうとう肝が座っているよね。「来ない」ってことをわざわざアンケートに書けるってことがすごいよ。

 

キ:そうですよね。なかなかそこまでは書かないですから。

 

師:この人は何をやっても成功します。

 

キ:う~ん、確かに。

 

師:よほどの大物だな。

 

キ:……でも、この方が次々回は来たくなるくらい、次回はもっと上手に仕切れるように頑張りますよ……ボクはッ! うぅ〜〜…

 

師:泣くなキッチン!

 

 

 

師に問う:
私は、話がつまらない(ようです)。どうでもよい内容を、膨らませたり面白くしたりする方法はありませんか?

私は50代の女性です。同世代の同性の方々は、とても楽しそうに話しています。よく聞くと、まるで中身がありませんが…… (匿名/女性/50代)

 

 

 

キ:師匠の仕事は、まさにここで言われているような、“どーでもいい内容を膨らませたり面白くしたりする”ことですよね。

 

師:失敬だな! まぁでも、そういう稼ぎ方をしてるよね。そういう稼ぎ方が世の中にあったんだな…と。ありがたいことです。

 

キ:そういうのを他の人に教えられる方法ってあるんですか?

 

師:そんな方法があったら、こっちが聞きたいよ。

 

キ:……はぁ。

 

師:それじゃ、質問をもういちど読んでみようか。

「私は話がつまらない(ようです)、マル」…って、このカッコになっているところに、この人のプライドを…

 

キ:感じます。

 

師:感じるよね。すごく感じる。

でもそこが、この人の面白いところだな。

 

キ:次に、「どうでもよい内容を、膨らませたり面白くしたりする方法はありませんか?」…ときて、「50代の女性」。

 

師:なるほど……そのあともいいね。

「同世代の同性の方々は、とても楽しそうに話しています」が、「よく聞くと、まるで中身がありませんが……」って。

他人に厳しい! 周りの人たちのことを羨ましく思っているのかと思いきや!

 

キ:辛辣ッ!

 

師:最後の「が……」のところの余韻がなんとも言えないね。だけど、楽しそうに話していることって、中身がないことのほうが多いよね。会話って中身があるから楽しいってわけじゃないというか。

 

キ:大笑いした次の日とかに冷静になってみたら何も覚えてないことってよくありますもんね。

だけど、この人はそれには我慢できなくて…

 

師:この中身のない会話を変えたい……そういうワケだ。

 

キ:みんながつまらないから、どうでもよい内容の話を膨らませてでもやっぱりここは私が喋りたいという…

 

師:使命感! それを感じるね。

 

キ:感じますね。

 

師:こんなつまらない話をしている人たちに、ちょっと私が喝を入れたい! …と。

 

キ:あはは、そうですね。

 

師:だけど、どうも自分は話がつまらない、ようです…と。どうしたらいいでしょうかっ? …ってことなんだね。

 

キ:……あれ? ……師匠ッ、すみません。

 

師:はい、なんでしょう?

 

キ:もしかしたら、この方は……この中身のない話をしている人たちから…

 

師:うん。

 

キ:「話がつまらない」と…

 

師:あっ、言われているね。

 

キ:ですよねッ!!

 

師:あちゃー…、この人はそのコミュニティーにいないほうがいいよ!! まったく合ってないんだもん、価値観とかが!

 

キ:ふぅぅ……(ため息)

 

師:「こいつら、つまんねぇ奴らだな」と自分が思っている連中から、「私は話がつまらない」と言われていますが…

 

キ:どうしたらいいでしょうか? …って、そういうことですよね。

 

師:それはもう、今すぐにでもそこから離れろ!! だよ!

あなたは、そのコミュニティーにいないほうがいい。

一刻も早く!

 

キ:おおー、切羽詰まってますね。

 

師:そうです、そうです。それがお互いのためです。

 

キ:まずはその場から離れる。……話を膨らませる膨らませない以前の問題ということですね。それで、そうしたことが解決したうえでようやく、「どうでもいい内容を膨らませたりするには~」という本題に…

 

師:入ることができる…ってことだ。

そうね……う〜ん。それは読みこむことだな。

 

キ:ものごとを?

 

師:そう、今まさにそれをしたじゃない。失礼だけれども、悩みとはいえ、どーでもいい話をこうやって。

 

キ:ひ…ひどい!

 

師:まあまあ。失礼だけどさ、悩みとはいえ軽い話をこうやってジックリ読みこむことによって、この方の気持ちとか状況とかがじわっと行間からにじみ出てきて、情景が頭に浮かんだでしょ?

 

キ:浮かびましたね。

なるほど、まさにいま実践したということなのか。

 

師:つまりそういうこと!

……そういえば、むかし現代文のテストで先生に言われたよね。なんども読みこめって!!

 

キ:出題文を。

 

師:そうそう。オレ、好きだったんだよ現代文。

 

キ:あー、好きそう。

 

師:「作者が言いたいことを20文字で記せ」みたいなやつ。

 

キ:ちゃんと書けたんですか?

 

師:本当はちゃんと書けるんだけどさ、屁理屈で答えちゃったりするの。オレの解答は間違っているけど面白いだろ? …みたいなね。

……わかっていますよ。答えはわかっていますけれども、こういう考え方だってあるんじゃないんですか! …ってね。

 

キ:そこまで読みこんで!

 

師:そう!

 

キ:でも、答えとしては間違っているんですね。

 

師:しょうがないよね。

 

キ:しょうがない……?

 

師:だって世の中、正論だけじゃつまらないじゃない。

 

キ:なるほど! さすが師匠ですね。まさに屁理屈!!

 

師:…………

 

 

師いわく:


 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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