• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第18回 『職場の後輩に振り回されています』

 

読者からの質問への答えに一区切りつけた一之輔師匠は席を立ち、ドリンクバーへ。私キッチンミノルは、師匠の話した内容をノートに軽くまとめている。ふと視線を上げると、すでに師匠は席に戻ってきていて、見るともなく私を眺めていた。

 

一之輔師匠(以後、師):……さっきの質問で「20世紀最後の〇〇」って話があったでしょ?

 

キッチンミノル(以後、キ):ありましたね。

 

師:じつはオレって「21世紀最初の落語家」なんだよ。

 

キ:21世紀最初の……?

 

師:そうなんだよ。2001年にうちの師匠に入門したの。図らずもオレは21世紀で最初に誕生した落語家なんだよね。

 

キ:ええーッ!

 

師:つまり必然的に、21世紀を担う落語家だということになるな。

 

キ:なるほど……高校野球の「21世紀枠」みたいな。

 

師:違うよ! それだとまったく意味が変わってくるじゃねぇか。

 

キ:失礼しました。……「21世紀を担う落語家」ですよね。

 

師:そうです。

 

キ:図らずも21世紀の幕開けとともに落語家になったということですが、当時そのことについて、なにか思うことはあったんですか?

 

師:そりゃあ、あるよね。

 

キ:あ、あるんですね。

 

師:21世紀の申し子として、この100年をオレが、オレの落語が背負っていかねばならないのかなって思ったよね。

 

キ:ほおほお。

 

師:この100年は、オレの落語にかかってんのかなって。

 

キ:へー、すごいすごい! さすがですね。

 

師:なんだよ! バカにしてんのか?

 

キ:あっ……。「さすが」って言葉はこういうときに使うといけないんでしたね。よくわかりました。

 

師:おい! オレで試すな。

【編集部注】さすが…第14回『ことばに「心がこもっていない」と言われます』をご覧ください。

 

キ:だけど師匠が「21世紀最初の落語家」で21世紀を担う落語家ってことを誰も知らないんじゃないんですか?

 

師:……キッチン。そんな冠〈かんむり〉はね。あとでヘロドトスや司馬遷がつけるものであって、自分で名乗るもんじゃないの。わかる?

【編集部注】ヘロドトス…紀元前5世紀の古代ギリシアの歴史家。ペルシャ戦争を中心とした『歴史』を著し、「歴史の父」と呼ばれる。/司馬遷…起原前2~1世紀の中国の歴史家。中国初の世界史『史記』を著した。 

 

キ:それは気がつかず失礼しました…って、さっき自分で名乗ったんじゃないですか!!

 

師:へへへ。誰も言ってくれないから、自分でちょっと言ってみちゃいました。

 

キ:照れられても困ります。

 

師:でも、今まで誰も気がついてなかったみたいだから。

 

キ:私に小言を言うふりをして、あたかも誰かから言われたエピソードみたいに持っていこうとするの、やめてくだい! 師匠は時々そういうプロの技を使うからなぁ。
……でもたしかに、21世紀最初の落語家だったとは気がつきませんでした。

 

師:そうだろ。

 

キ:ちなみに何月に入門したんですか?

 

師:4月。

 

キ:……4月…ですか…… 

 

師:……………いるかな? 

 

キ:……い、いるかもしれませんね。

 

 

※2001年1~3月に入門された、「自分こそが【21世紀最初の落語家】である」という方、または正確な情報をお持ちの方々からの御連絡をお待ちしております。

 

 

師に問う:

39歳パート主婦です。
最近入社して私とペアを組むことになった職場の後輩が、入社3日目からすでにタメ口(ときには上から目線)で、くだらない冗談を言っては肘で小突くなど、馴れ馴れしい上に、どっちが先輩なんだ!?…と思わせる毎日の言動に、かなり違和感をおぼえます。
それでいながら仕事の習得が遅く、上司から注意を受けるような後輩です。
悪気はなく、他人との距離のとり方が異常に近い人なのだと思うのですが、私は不快です。
どうすれば気持ちよく仕事が出来るでしょうか。
(更年期のあげ潮/静岡県)

 

 

キ:私も馴れ馴れしいとよく言われるほうなので、こういうふうに知らず知らずのうちに他人に嫌われていることもあるのかなぁ…なんてこの質問を読んで思いました。

 

師:あるだろうね。

 

キ:……他人に言われるとなんかムカつきますね。

 

師:だけど、初対面でいきなりタメ口ってすごいね。「くだらない冗談を言っては肘で小突く」、あはは。この後輩はダメなところがいっぱいだなぁ。

 

キ:なかなか小突けないですよね、先輩を。

 

師:良いところは、悪気がないくらいか。

 

キ:だけど、後輩のタメ口が始まったのは入社3日目からなんです。2日目までの間に、後輩とあげ潮さんとの間には何があったんでしょうか? こんなに後輩になめられるなんて普通じゃないですよね。

 

師:そう! そこはかなり気になる。
……この方自身が、後輩の態度を変えさせるほどの重大な過ちを2日目までに犯している可能性は否定できないからね。まずは自分の言動に過ちはなかったか見直す必要はあるかもね。

 

キ:後輩の文句を言う前に、まずは自分を振り返ってみる…かぁ。
……だけど、ちょっとバカにしている感じはありつつも、この後輩はきっとあげ潮さんのことが好きですよね。懐いていますよね。

 

師:そういう雰囲気はあるね。 

 

キ:例えば前座さんとかで、師匠に懐いてくる方も多いと思うのですが?

 

師:意外といないよ。まず最初に「楽屋では口きくな」って教わるからね。

 

キ:そうか。真打の師匠と前座さんとでは立場が相当に違うし、最初に厳しく言われるから、あげ潮さんの後輩みたいな人はいないのか。
……では、師匠のほうから相手へ気を揉むってことは起こらないんですね。

 

師:それでも懐に飛び込んでくる奴はいる。才能なのか天然なのかはわからないけど。

 

キ:あー、それはすごい。ザ・芸人さんって感じですね。

 

師:ただそいつが、「懐に飛び込んできたら嬉しい奴なのか、そうじゃないのか」は、また別問題なんだけどね。

 

キ:次の段階は気が合うかどうかの話になるのかぁ。嬉しくない人が懐に飛び込んできたら、ちょっとイヤですもんね。

 

師:まあね。でも、ヤだなぁと思った以上に飛び込んできたら「しょうがねーなぁ」と思っちゃうこともある。こいつはこういう奴なんだな…と認めてしまうというか。

 

キ:飛び込むならば、とことん飛び込んじゃえばいいんだ。

 

師:そうなると、それはそれで、そういう個性として認められるんだよ。

 

キ:あげ潮さんの場合は、職場でペアを組まないといけない仲間ということもあるでしょうが、嫌だなと思いつつも完全に拒否まではしていないんですよね。後輩の態度はもう変わらないって諦めているのか、自分が気持ちよく仕事をするには自分自身どうするべきか…という前向きな質問のようにも受け取れます。

 

師:職場のペアとはいっても現在の距離感だとストレスが溜まってしまうんだから、あげ潮さんはまず、この後輩がどちらに属するのか試すべきだと思うよ。

 

キ:飛び込んでくる奴なのか、そうじゃないのか…を?

 

師:そう。

 

キ:たしかにそれによって今後の対応が変わってきますからね。

 

師:例えばこんな一言を冷静に投げかけてみたらいいんだよ。
「やめてくれないかな。そういうの嫌いなんだよね。わたし先輩だし」って。

 

キ:まずはストレートに気持ちを伝えてしまう。それで……

 

師:後輩が「すみませんでした、気をつけます」とか「えっ、そうだったんですか」っていう反応だったら、こっちの気持ちをわかっていなかっただけだから、ちょっと小言を言ってもいいかもしれない。そのあとは普通の同僚として、適度な距離感でつきあっていけばいい。

 

キ:なるほど、人それぞれ距離感が違うんだよってことを相手に伝える良い機会になるのか。それにこれくらいであれば、あげ潮さんがそのあと今までどおり普通に接すれば、あまり波風は立たなそう。

 

師:……だけど、もしさ。

 

キ:ん? もし?

 

師:後輩がさ、「またまたぁ、そんなこと言っちゃってぇ~」と乗っかってきたとしたら……

 

キ:したら⁉︎

 

師:リーチです‼︎

 

キ:リーチ!?

 

師:「キタ〜ッ!!」って喜んだほうがいいよ。心の中でガッツポーズものだから。

 

キ:ガッツポーズまで出しちゃうくらいに……?

 

師:だって、あなたは今、とんでもない物語の入り口に立っているわけだから。

 

キ:え……

 

師:さぁ、ここでもうひと押し!
「嫌いだ、っつってんだろー!!」と、キレ気味に叫んでみましょう。

 

キ:ええーッ! ブチギレで⁉︎

 

師:それでも「あれ〜ェ? この人なんか怒ってる~~ゥ」って、人を食ったような返答が後輩から返ってきたら、もうビンゴだから!

 

キ:す、すみません。ちょっと話の展開に置いてきぼりをくらって理解できないんですが…

 

師:まだ気がついてないの? この二人の関係をちょっと引いてみてごらんなさい。
「同じ職場」「無理やり組まされたペア」「真面目で口数の少ない先輩」「馴れ馴れしくて仕事のできないダメ後輩」……そんな二人が出会っちゃたんだよ。
これってバディ作品の典型でしょ〜が! 

 

キ:バ、バディ作品……先輩刑事と後輩刑事が事件を解決していくアレですか?

 

師:そう。あげ潮さんがトミーで後輩がマツってことになるのかな。

 

キ:トミーにマツ?

 

師:日本でバディ作品の元祖と言われている『噂の刑事トミーとマツ』しかないでしょ!

【編集部注】噂の刑事トミーとマツ…1979年~1982年にTBS系ほかで放映されたテレビドラマ。国広富之演じるトミーと松崎しげる演じるマツの凸凹コンビが事件を解決する。

 

キ:え~~ッ!?

 

師:『メン・イン・ブラック』でもいいよ。ペチャクチャうるさい後輩がウィル・スミス。

【編集部注】メン・イン・ブラック…1997年公開のアメリカ映画。最高秘密機関MIBのベテランK(トミー・リー・ジョーンズ)と新人J(ウィル・スミス)が活躍するSFコメディー。

 

キ:……

 

師: つまり、あげ潮さんはバディ作品の主人公で不愉快な後輩は格好のパートナーですよ。

 

キ:なるほど! あげ潮さん&後輩コンビとはキャラクター設定がちょっと違いますが、言わんとすることはわかります。

 

師:こうなったら、とことん主人公になりきるしかないでしょ。

 

キ:この後輩と……

 

師:そう。
なかなか実生活で物語の主人公になれることなんてないからね。 この際、違和感や不快な気持ちごと、凸凹バディ状況を楽しみましょう。「毒を喰らわば皿まで」ってヤツです。

 

キ:そ、そうですね。

 

師:第一話目のタイトルは「三日目の事件簿〜最悪の出会い〜」で決まりだね。
さぁて、これから二人でどんどん事件を解決するよ〜~ッ!!

 

 

師いわく:


 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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