• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第21回 『プレゼントに緊張してしまいます』

 

暦の上ではとっくに秋。とはいえ残暑はまだまだ続く気配。……けれども雲の形や虫の音そして居酒屋のメニューに、少しずつ秋の訪れを感じます。

 

一之輔師匠(以後、師):……今日は月刊誌の原稿を書き上げてから来たし、準備万端だぞ〜。
【編集部注】月刊誌の原稿…EX大衆(双葉社)にて「人生のBGMはラジオがちょうどいい」を絶賛連載中。週刊朝日「ああ、それ私よく知ってます。」以上にはじけた、我らが師のコラムが読めます。

 

キッチンミノル(以後、キ):おお〜! 日々お忙しい中、このために仕事も片付けて挑んでくださるなんて嬉しいです。

 

師:そうゆうことよ!

 

キ:ありがとうございます!

 

師:まぁ、とりあえずビールね。

 

キ:え、いきなりアルコールですか…?

 

師:だって飲まなきゃやってられないでしょ。

 

キ:え〜と、“やってられない”…??

 

師:だって今日の仕事は終わらせてきたんだから。……なにか?

 

 

キ:……すみません。時々不安になるんですけど、これもお仕事なんでよろしくお願いします。

 

師:はいはい。またキッチンは大きな声で……疲れてるんだから頼むよ…

 

キ:頼むよ!? ……こっちのセリフですよ!!
本日も迷える我々にお導きの金言をよろしくお願いしますよッ!

 

師:はいよ〜。

 

師に問う:

友達からプレゼントをもらうと、緊張してしまいます。誕生日のプレゼントや旅行のお土産みたいに、くれる理由があるときは平気なのですが、「コレ、かわいいからあげるね~」みたいなときは、たとえ高価じゃなくても、「ありがとう」の前に「なぜ?」と思ってしまうのです。お返しするタイミングも分からないので、いろいろ気にするくらいならプレゼントなんてほしくないと思ってしまいます。プレゼントのやりとりなんかなくても仲良くできると思うので、気をつかわないで欲しいんですが、さりげなく断るにはどうしたらいいでしょう? それか、もらうのに慣れる方法を教えてください。
(相模原さが美/神奈川県/大学生)

 

師:もらえるもんはもらっちゃえばいいのに。断る必要なんてないし、お返しなんて考えてプレゼントもらっちゃダメだよ。

 

キ:ダ、ダメ…ですか。

 

師:「ありがとう」って言えばいいだけじゃないの?

 

キ:なるほど。

 

師:向こうだって見返りを求めてものをくれているわけじゃないんでしょ? 見返りを求めてくれているとしたら、そんなヤツはもう友達じゃないよね。

 

キ:ものすごく嫌ですね。

 

師:ものをあげるのが好きな人っているからね。お礼の言葉と感想を言えばいいんじゃないの?

 

キ:その場でですか?

 

師:その場ではもちろんだけど、次に会ったときに。

 

キ:お礼状なんかは……?

 

師:まぁ手紙まではいらないだろ。次に会ったときに、もう一度感謝の気持ちを伝えて、プレゼントの感想も添えるとより良いよね。

 

キ:あ〜、だけどそれをつい忘れちゃうんですよね。お礼を言わなきゃって思っているんですが、会っているときには思い出せなくて、別れた直後に思い出したりしてショックを受けるんです。

 

師:いかにもキッチンらしいな。

 

キ:相模原さが美さんも、このお礼を言うタイミングが難しいと思っているのかな? 気を遣うくらいなら、いっそプレゼントなんて最初っからもらう必要ないんだけど…っていう意見なんでしょうね。プレゼントがあるから友達を続けているわけではないんだから…と。

 

師:友達のほうだって、なにか魂胆があってあげてるわけじゃないでしょ。友達を続けるためにプレゼントをくれるんだという考えが、そもそも間違い。

 

キ:間違い?

 

師:そう。友達は、「かわいい」とか「美味しい」とか「おもしろい」といった気持ちを、さが美ちゃんと分かち合いたいからプレゼントしているの。

 

キ:なるほど。

 

師:だから、友達を続けていきたいからプレゼントをくれると思っている時点で、相手に失礼です。

 

キ:さが美さんを懐柔しようとしているわけでは…

 

師:断じてない。
そもそも相模原さが美さん、あなたはそれほどの人ではないです。

 

キ:いやいや、断じるのは……それほどの人かもしれないじゃないですか!

 

師:ないない。意識しすぎです。

 

キ:お〜いっ!

 

師:もしかしたら、さが美ちゃんはかわいそうに思われてるのかもしれないよ。

 

キ:かわいそう?

 

師:こんなものもらったことないだろ、お前は…って。

 

キ:施しみたいな…?

 

師:さが美ちゃんと友達になりたいからあげてるんじゃなくて、かわいそうだからあげているのかもしれない。「かわいい」と「かわいそう」の聞き間違い。

 

キ:ええ〜! もしそうだとしたらめちゃくちゃショック! いままで素直にもらっていなかっただけに余計にショックかも……

 

師:だから、深読みせずにプレゼントをもらったら「ありがとう」、そして次に会ったときにもういちど「ありがとう」と言えばいいんです。

 

キ:なるほど。
……師匠も地方公演や特別公演のときにはたくさんのファンの方からお土産をいただいている姿をよく見ますが、断ったりってことは?

 

師:ないよ! 失礼だろ、それは!

 

キ:そうですよね。師匠は素直に受け取る派ですよね。

 

師:そうだね。

 

キ:他の噺家さんで断る派の方っていらっしゃるんですか?

 

師:いや〜、いないと思うよ。

 

キ:噺家さんと比べようとしたのが悪かったかな。噺家さんの毎日はある意味、ハレの日が続いているわけですもんね。だからプレゼントも受け取りやすい。

 

師:そうかもね。

 

キ:でも一般の方だと、なかなかもらう機会って少ないように思うんです。さが美さんも書いているように、旅行の後や誕生日のときくらいで。これはハレの日だから、プレゼントをもらっても腑に落ちると思うんです。

 

師:なるほど。

 

キ:だけど、普段の日に急にプレゼントされると「なんで?」って最初に思ってしまう気持ちもわからなくもないです。相手の腹を探ってしまう気持ちになって、そういうふうに思っている自分にも疲れるし、お礼やお返しで悩まないといけないのなら、いっそプレゼントなんていらないって思ってしまう。

 

師:はい。

 

キ:さが美さん自身も断るのは失礼だということはわかっているから、悩んでいるんだと思います。

 

師:プレゼントを断るよりは、もらうのに慣れるほうが楽だと思うけどな。

 

キ:楽ですか……

 

師:ちゃんと「ありがとう」を言える人になろうよ。

 

キ:もらったときと次に会ったときに…ですよね。

 

師:そう。もらいっぱなしじゃ気持ち悪いじゃない。だからこそのお礼ですよ。

 

キ:そうなんですよね。だけど、さが美さんはそのことをずっと気にしているってことが…

 

師:めんどうくさいんでしょ、すごく。

 

キ:はい。そもそもプレゼントをもらわなければ、そんなこと考えなくても済んだわけですからね。

 

編集の高成さん(以後、タ):薄っぺらな人間関係なのかな、この人は……

 

キ:急になに言い出すんですか、高成さん! 
……う〜ん。私は人間関係が希薄なのとは少し違うような気がしてるんです。

 

師:というと?

 

キ:この質問で重要なところは、相模原さが美さんが大学生というところなのかなと。社会人になってお金に少しは余裕が出てきたら、自分もかわいいと思うものを買ってお返しすれば、お互いの「かわいい」を交換できて楽しいじゃないですか。

 

師:プレゼントを介してのコミュニケーションね。感覚が似ていればより楽しいよね。

 

キ:だけど大学生って、いつも金欠気味じゃないじゃないですか。私はすごく貧乏だったのですが、お礼しか言えないって友達同士でも辛いんですよね。

 

師:なるほど。

 

キ:さが美さんの場合も、「かわいい」の交換もできずにお礼を言ってばかりだと、プレゼントなんていらないのになぁって思うようになるかもしれません。

 

師:貧乏だからお返しできないというのはキッチンの実体験に寄りすぎてないか?

 

タ:女子大生だったら、お返し選びのセンスに自信がなくて悩む…という理由もありそうですね。

 

キ:ああ、なるほど。そういうふうに思うこともあるのか。

 

師:理由はひとつじゃないかもね。

 

キ:もらうのに慣れるには、「ありがとう」を心がけよ…と言うことでしたが、今まで言ってこなかったとしたら、「ありがとう」を自然と言えるようになる努力も必要ですよね。

 

師:そうね。

 

キ:自然にお礼を言えるようになるまでは、やっぱり「さりげなく断る」方法が必要かもしれません。

 

師:断ると双方が傷つく可能性が大だからなぁ、相手も今までのはなんだったんだって寂しくなっちゃうだろうし。……友達関係は続けたいんでしょ?

 

キ:だからこそ、さりげなく断りたいんです。切実なんです。

 

師:……わかりました。一之輔流ミラクルな断り方を教えましょう!!

 

キ:おお〜ッ! ぜひ!!

 

師:それは、あなたの手が空いているからいけないんです。

 

キ:手が? 空いているから…いけない??

 

師:だから、ずーっと両手いっぱいの荷物を持って生きてりゃいいんです。

 

キ:両手に荷物っ!?

 

師:もう、これ以上は持てませんよ!…って感じで。袋からネギやフランスパンを出してさ。

 

キ:買い物帰りみたいな感じですか?

 

師:そう。両肩からは袈裟懸けでバッグをぶら下げて。汗をダラダラかいて。
その姿を見たら、友達もプレゼントはなかなか渡しづらいでしょ。

 

キ:そ、そうですね。プレゼント以前に近寄り難いかもしれないですが……

 

師:それでも相手が「これ、カワイイから!」って懐にプレゼントをグイグイ入れてきたらさ、そのときは断ってもいいよ。
「ちょっと待ってよ! こんだけ荷物持ってんだから受け取れないし、あなたどうかしてるよ! 一事が万事よ!!」
…って言っていいと思うよ。

 

キ:状況が状況ですからね。

 

師:こうすることで、相手がただプレゼントをあげたい人なのかどうかよくわかるから。

 

キ:確かに!

 

師:それで友達が「そうだね、ごめん!」って謝ってきたら、「いつもありがたいけど、今は状況も状況だし、これからもそんなに気を遣わなくてもいいよ」って一言いえるじゃない。そうすれば、そこから新しい関係を築けるでしょ。

 

キ:そうですね。

 

師:それでも「まぁまぁ」とか言ってポケットにグイグイ差し込んできたり、口にくわえさせようとしてきたら、この人は「ただあげたいだけの人」、決定!

 

キ:間違いないでしょうね。自分がプレゼントをあげたいという気持ちが、相手への気遣いよりも勝っているってことですからね。それならば、プレゼントをもらったとしても別にこちらからも気を遣う必要は…

 

師:なし! 向こうはプレゼントをあなたにあげたいだけなんだから。
これからは安心して気楽にプレゼントをいただきましょう!
いつものオレみたいに。

 

キ:師匠はいつも両手いっぱいのプレゼントですもんね。

 

師:へへへ……

 

師いわく:

 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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