デビュー作『のぼうの城』(小学館)がいきなり36万部ヒットとなった注目の若手作家・和田竜氏と、
同作のカバーの装画を手がけた人気漫画家のオノ・ナツメさんが、
10月30日発売予定の和田氏の最新作『小太郎の左腕』(同)でも再びタッグを組むことが決定。
ファンにはたまらないこの朗報を受けて、待望の初対談が実現!
和田竜作品の人気の秘密は、「かっこよくて・かわいい」にあった!?(構成・田川千晶)
和田 竜(以下、和田):そうです。
オノ・ナツメ(以下、オノ):ええ、初めてで。
和田:ね、初めてで。
オノ:ですね(笑)。
和田:なんか、ガチガチな感じが、あはは。
和田:
最初に江戸の町を舞台にしたオノさんの漫画『さらい屋 五葉』(小学館/「IKKI」で連載中)を読ませていただいて、
すごく平凡な言い方だけど味のあるタッチで、表紙になったときの絵の感じが容易にイメージできたんです。
それと、たいてい歴史小説の表紙というのは、炎がメラメラメラ〜となってたりとかマッチョな感じのものが多いんですが、
僕としてはなるだけそういうものにはしたくなかった。だから、すごくいい方を紹介してくれたと思って、
すぐに編集者に「ぜひ話を進めてください」とお答えしました。
オノ:
普段は漫画を描いているので、装画一枚だけで表現するというのは苦手なんですね。自分の作品以外で仕事をしたのも、
以前に一度だけ演劇のチラシを描いたことがあったくらいだったので。だから表紙でと言われたとき、最初はやはり不安でした。
作家さんの中のイメージを、自分の絵が邪魔してしまったらどうしようって。
でもあらじかめ、編集の方から「『五葉』の扉絵みたいなテイストで、のぼう様(成田長親)を描いてほしい」と
イメージをわかりやすく伝えてもらったので、私としてはそれで随分描きやすくなりました。
和田:
僕は逆にこの絵を拝見したとき、オノさんの側に引きつけてもらって有り難いな、と思ったんですよね。
オノさんの中で作品を解釈していただいて、それが絵になっているという印象を持ったんです。
オノ:
そう言ってもらえるとホッとします。ラフは何パターンか描いたのですが、
自分の中ではこの横顔のアップと引いた全身の横顔のどっちかかなって思ってました。
和田: 実はなんとなくね、僕はオノさんに描いていただく前に、横顔のアップに決まるんじゃないかって予感がしてたんです。
オノ:そうだったんですか!
和田:
昨年、「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)でオノさんの特集が組まれたとき、『のぼうの城』のラフもいくつか
紹介されていたじゃないですか。長親の立ち姿なんかもあったので、「ああ、何パターンか描かれたんだな」と思ってたんです。
だけど最終的にやはりアップの横顔に落ち着いたと聞いて、驚いたんですよ。
オノ:
実は、この同じアップの横顔に田楽踊りの烏帽子(えぼし)をかぶらせた烏帽子バージョンも描いたんですよ。
でも、戦国武将モノなのにいつの時代の話なのか全然わからない感じになっちゃって、採用されませんでした(笑)。
和田:
それは編集者からのリクエストで? 危なかったな〜(笑)。オノさんが描いてくれた長親は、かっこよくてセクシーで、
何を考えているのか読み取れない表情で、それでいて底知れぬ存在感を放っている。そんなところがすごく気に入っています。
和田:
僕は内容にはもちろん自信がありましたけど、自分に知名度があるわけではないし、かつ歴史モノだし、
内心は「ほとんど売れないだろう」って思ってたんです。
だから、デビュー作がここまでヒットできたのは、まずこの絵の力がすごかったんだろうなって思いますね。
オノ:
あっ、違うんです! あれは正確には「かっこよくてかわいい」なんです。かっこよさだけでもだめで、そこにかわいらしさが
足されて魅力的な人物になると私は思うんですよ。でも「かわいい」という部分だけが帯に使われていたので、
「かわいいだけじゃだめなんだ! 足りないんだ!」って、本屋で見たときひとり熱くなってしまいました(笑)。
和田:なんでも「かわいい」って言う奴だと思うなよ、と(笑)。
オノ:
そう。かっこよさの中にあるかわいらしさなんです。そこを今日はすごく伝えたくて。
ああ、よかった……。
和田:特に意識はしてないんですけど、基本的に出てくる連中って「子どものような馬鹿さ」
みたいなのを持っているので、そういうところを「かわいい」って思ってくれるのかもしれないな、と。
たぶん僕がそんな感じの人間なので、無意識にどのキャラクターもそんな感じになってるんだと
思うんですけど。
オノ:
人物同士のやりとりがいいんですよね。私は特に城受け渡しのシーンで、のぼう様を囲んでの
家老3人のやりとりが好きなんです。微笑ましくて。城代ののぼう様に対してみんな言いたい放題で、
その様子を見た敵将の石田三成がちょっと驚いてたりとか、ああいうのですよね。
オノ:
読んでいて、門の前で丹波が松明を片手に待っている姿が頭に浮かぶんです。そう、この作品って絵(映像)が
次々と浮かんでくるんですよ。それもあって、あまり普段は本を読まない私でも、一気に読めてしまいました。
和田さんも、書いているときは絵が浮かんでいるのですか?
和田: そうですね。自分の中に浮かんだ絵の動きや台詞を文字にしているのが6〜7割で、残りが時代背景とかの説明という感じです。
和田:
それもあると思います。あと、『のぼうの城』は『忍ぶの城』(03年に脚本家の登竜門である城戸賞を受賞)という脚本を
小説化したものなんですが、小説にするとき、無理に小説然とさせすぎたらつまらなくなるかもしれないと思ったので、
自分が必要だと考えるものだけを書くことにしたんです。例えば僕が小説を読んでいてつまらないと思うのは、エピソードを消化すると
始まる風景的なものの説明です。確かに「紅葉がきれいだ」なんだのと文飾豊かにすると、より小説としては体をなしていくと思います。
でも僕はそういうのを読んでいて面白くないので、書かないというわけです。いきなり本題から入る。
オノ:
それでテンポがよいんですね。私は発売前に読んだダイジェスト版で内容を知っていたはずなのに、
完成版もわーって一気に読んじゃいました。でも最後の章だけは、せっかく魅力的な人物たちがいっぱいなのに、
彼らの話が終わってしまうのが悲しくて、読む速度がゆっくりになりました(笑)。
和田:それはうれしいなぁ。
和田:
はい、僕が初めて書いた戦国モノ脚本なんです。だから、僕の原点と言ったら大げさなんですけど、
忍者が出てきたりとか僕のネタ的なものが詰まっています。ある意味、僕の戦国時代モノの入門書とも言えるかもしれない。
和田:いやー、相変わらずわけのわからないキャラクターで、オノさんにはすみません!
オノ:
独特ですよね。『のぼうの城』のときも、初めに編集部のほうからのぼう様の特徴をいくつか抜き出して送ってもらったとき、
どうしようって思ったんです。表現するのが難しくて。今でものぼう様を描くのは難しいんですけど、それに比べると小太郎の風貌は
描きやすいんですよ。だけど重要なのは表情だと思うんです。幼さがちょっと残っているというのをどう描けるか、それが難しいですね。
特に切れ長の目だけど瞳に子どもらしい輝きがある、という部分。どうしようって思いながら、いまラフを描き始めたところです(笑)。
和田:他人から見れば馬鹿に見えるくらい純粋で、イノセントということですね。それゆえに、彼は
それこそ『ゴルゴ13』のような(笑)、スナイパーの能力を授けられている。狙撃手というのはどう
やらそういう側面が必要らしくて、いわゆる愚鈍に近いほうが能力は高いとも言われているんです。
小太郎は物語にとって触媒のようなもので、彼を取り巻く人々に影響を与えていき、いつしか一国をも
揺るがす存在になっていく。言ってしまえば、主人公らしくない主人公ですね。『のぼうの城』の主人
公がああいうキャラクターになったのも、その前に小太郎を書いていたからなんだと後で思いました。
オノ:これから読むので楽しみです!
和田:さっきも言いましたが、僕は女性にウケると思って書いてないですからね(笑)。
こういう男になりたい、こういうふうに生きたい、という憧れを書いているだけなんです。
オノ:だから自然でいいんだと思います。
和田:僕が戦国時代を舞台にするのは、当時の人のマインドに興味があるからなんです。
いまとは考え方があまりに違うので、ある事柄に対する反応が現代人とは真逆に出ることがままあったりして、面白いんですよ。
この物語でも、小太郎とほかのキャラクターたちの関係の中から、その当時の社会がどんな感じだったか、
当時の男たちがどんなことを考えて生きていたかを感じ取れるように書いたつもりなので、ぜひ楽しんでみてください。
1969年12月、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。03年、脚本『忍ぶの城』で第29回城戸賞を受賞。07年、同作をベースにした『のぼうの城』(小学館)で小説家デビュー。第139回直木賞候補、第6回本屋大賞2位に選ばれるなど話題を呼び、累計33万部を突破。最新刊は『小太郎の左腕』(同)。
1977年7月生まれ。03年、『LA QUINTA CAMERA』で漫画家デビュー。09年、『リストランテ・パラディーゾ』(太田出版)がテレビアニメ化され、大きな注目を浴びる。連載中の作品に『さらい屋 五葉』(小学館)があるほか、11月発売の「モーニング・ツー」(講談社)にて新連載『つらつらわらじ〜備前熊田家参勤絵巻〜』がスタート。