受賞作ならびに受賞者 小学館文庫小説賞 【正賞】記念品 【副賞】百万円 『そして灰色に融ける』鳥海 嶺(とりうみ・りょう)、優秀賞 【正賞】記念品 【副賞】十万円
『猫町くんと猫と黒猫』 樒屋京介

選考経過

 第十七回小学館文庫小説賞は二〇一四年十月から二〇一五年九月末日まで募集され、四百七十篇のご応募をいただきました。
 選考は応募作の中から候補作を絞り込む一次選考、候補作の中から最終候補作を選ぶ二次選考、そして小学館文庫小説賞受賞作を決定する最終選考の三段階を経て行われました。
 一次選考を通過したのは以下の十八篇です。

『ミッド・セブンス』根本起男/『ハッピータウン』藍沢砂糖/『鳴子跳ねる』高平あら/『私を殺してくれる誰かさん』貴志祐方/『月夜にラルバを踊れば』黒崎ダリア/『和紙と秘剣と』菊一利廣/『官僚教授 夙川理性の公』中野雅至/『クラッシュ!』杉浦昭嘉/『マリッジどどめ色』高津利彦/『灰色を穿つ鉛』鳥海嶺/『沖縄シーサー工房「ニャン山」』花城ゆうみ/『バタフライ、フリーフライ』ク・マキキ・ヨシ/『基本・太陽の下』加藤寿美/『鈍行列車』斉藤高哉/『音に聞け』初台つき/『ドロレス・ヘイズの夢のあと』齋藤エリカ/『無頼』長谷川辛之/『猫町くんと猫と黒猫』樒屋京介(応募受付順)
 一次選考を通過した十八篇の作品について、小学館出版局文芸編集部の全編集部員による二次選考を行い、文章力、テーマ、独創性、書き手としての将来性、読者への満足度などの観点から詳細に検討し、次の五篇が最終選考の対象となる候補作として選出されました。

☆第十七回小学館文庫小説賞最終候補作

『そして灰色に融ける』 鳥海 嶺 (千葉県・十八歳)
『バタフライ、フリーフライ』ク・マキキ・ヨシ (東京都・五十五歳)
『鈍行列車』斉藤高哉 (東京都・二十九歳)
『無頼』長谷川辛之 (東京都・三十歳)
『猫町くんと猫と黒猫』樒屋京介 (広島県・三十二歳)
(年齢は応募時)
右記の五作について、小学館出版局文芸の全編集部員による最終選考会を開き、さらに議論を重ねた結果、鳥海嶺さんの『そして灰色に融ける』(『灰色を穿つ鉛』改題)を第十七回小学館文庫小説賞受賞作に、樒屋京介さんの『猫町くんと猫と黒猫』を優秀賞に選出しました。
鳥海嶺さんには記念品と副賞百万円を、樒屋京介さんには記念品と副賞十万円を贈り、受賞作は近日中に小学館より刊行いたします。

各作品の選評はこちら

受賞の言葉

鳥海 嶺(とりうみ・りょう)

一九九六年、千葉県千葉市に生まれる。木更津工業高等専門学校に在学中。趣味は登山や神社仏閣への参拝、名勝観光、ゲーム、読書など。現在は春休みや夏休みなどの長期休暇中、あるいは何かしら思い浮かんだ時に文章を書いている。


私は小さい頃から文章を書くのが好きで、小学校では標語や学校の頒布物に載る短文をよく書いていました。中学生のころにはクラスメイトや先生に自分の書いた文章を褒められたこともあり、文章を書きながら生活していければいいなと思うようになりました(本当のところは真剣に仙人になりたいと思っていたのですが)。
 しかし周囲に薦められていた木更津工業高等専門学校の学校見学などを経て、面白い所だなあと興味を持ち、その環境都市工学科に入学しました。高専には校則はほとんど無いに等しく、生徒も先生方も一風変わっていますが、魅力的な人ばかりです。自由な気風があって、人に迷惑さえかけなければ何をしても基本的には許されます(かといって学問を疎かにすると簡単に留年の憂き目に遭いますが)。そんな風に学校生活は楽しいのですが、生きていればそれなりに悩みもあります。
 そこで私は精神の調整などを目的に幾つかの空想を言葉に落とし込むようになりました。それは基本的に前後が欠落した断片でしかないのですが、たまに魅力的に感じる一かけらが出来ることがあります。今回はその一つを基盤にして想像を膨らませていきました。
 今回のイメージの大元はあるゲーム作品群の世界観と音楽の一部にありまして、それはそれなりに暗いものでした。苛々していた時に着想を得たこともあって、今回の文章は全体としてかなり退廃的になっていますが、私なりに挫折の美をある程度表現できたのではないかと思っています。とはいえ、離散している破滅的な印象を連続した物語として固めていく過程でそこそこ情緒不安定になってしまったので、しばらくは前向きな空想に基づいて創作をしていきたいと思っています(趣味に関することや、ファンタジックな物語など?)。
 最後に、まどろっこしい所の多かった文章を読み、評価してくださった編集部の皆様に心より感謝申し上げます。

受賞の言葉

樒屋 京介(みつや・きょうすけ)

一九八三年広島県出身。
広島大学大学院教育学研究科博士課程前期修了。


 このたびは素晴らしい賞を授けていただきありがとうございます。
 関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。
 小説を書き始めて六年になります。
 六年前、今回と同じく故郷の尾道を舞台にした短編を書いて文学賞に応募しました。頭の中にある世界を紙の上に表現する作業は想像以上に大変でしたが、試行錯誤を重ねることさえ楽しく、食事も睡眠も二の次にして夢中で取り組んだことを覚えています。
 以来、飽きもせず書いては投稿することを続けてきましたが、四回、五回と一次選考にも残らないことが続くと、やはり落ち込みます。自分が良いと信じるものが、本当に正しいのか分からなくなります。それでも、自分が書きたいことを曲げてしまっては本末転倒ですので、好きなものを好きなように書いてきました。
 仕事や日常生活に現実的な支障がない以上、やめるという選択肢はそもそもありませんので、落選続きで心が折れようが、それはそれとして書き続けるわけですが、以前に一度、ある新人賞で最終候補に残していただいた際、嬉しかったのとほっとしたせいで、電話口で泣いてしまったことがありました。いい大人が、それも初対面の編集者さん相手にみっともない話ですが、自分で思っていた以上に他者からの共感や評価というものを求めていたのだなあと痛感しました。
 この六年は、螺旋階段を休むことなくのぼり続けているような心境でしたが、ようやく踊り場に辿り着くことができました。ここが新しいスタートラインだと思っています。
 過去に登場人物の台詞に使った言葉でもありますが、フィクションが現実を救うことがある、と私は信じています。読んでくださる方の居場所になれる物語を書きたいと思います。
 今後も精進してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

小学館文庫小説賞 受賞作一覧

第一回  『感染〜infection〜』 仙川 環 (佳作)『神隠し』 竹内 大 (佳作)『枯れてたまるか探偵団』 岡田斎志
第二回  『秋の金魚』 河治和香 (佳作)『if』 知念里佳
第三回  『テロリストが夢見た桜』 大石直紀
第四回  『ベイビーシャワー』 山田あかね (佳作)『キリハラキリコ』 紺野キリフキ
第五回  『リアル・ヴィジョン』 山形由純
第六回  『あなたへ』 河崎愛美
第七回   受賞作なし
第八回  『パークチルドレン』 石野文香 『廓の与右衛門 控え帳』 中嶋 隆
第九回  『踏んでもいい女』(『千の花になって』改題) 斉木香津 (優秀賞)『ある意味、ホームレスみたいなものですが、なにか?』 藤井建司
     (佳作)『秘密の花園』 泉スージー
第十回  『神様のカルテ』 夏川草介
第十一回 『部屋住み遠山金四郎 絡繰り心中』(『恋の手本となりにけり』改題) 永井紗耶子
第十二回 『マンゴスチンの恋人』 遠野りりこ (優秀賞)『時計塔のある町』 古賀千冬
第十三回 『薔薇とビスケット』 桐衣朝子
第十四回 『ドランク チェンジ』 八坂堂 蓮
第十五回 『ハガキ職人タカギ!』(『ハガキ職人カタギ!』改題) 風 カオル
第十六回 『ヒトリコ』 額賀澪