選考経過

 第十八回小学館文庫小説賞は二〇一五年十月から二〇一六年九月末日まで募集され、二百二十七篇のご応募をいただきました。
 選考は応募作の中から候補作を絞り込む一次選考、候補作の中から最終候補作を選ぶ二次選考、そして小学館文庫小説賞受賞作を決定する最終選考の三段階を経て行われました。
 一次選考を通過したのは以下の十五篇です。

『動石歯車の律禾』不比人/『ペルリの魔球』かわら全米/『免除者』相川智絵/『タマリ』上村惇生/『そのハミングは7』虹乃ノラン/『心の歌』友輝誠司/『左侠客・想次郎〜桜散りゆく清涼寺〜』長谷川辛之/『あの時のカモメ』西村昇/『仲居ボーイズ』大場諒介/『まわれ、ドーナツ』ふるたひろし/『眠りの森のバンパイア』横邊愛恵/『実のなる庭』小島なみ/『海の色を伝えたい』ユウミ/『君のいない町が白く染まる時』安倍雄太郎/『グラン・ゾーギュスタン街七番地』小早川真彦(応募受付順)

 一次選考を通過した十五篇の作品について、小学館出版局文芸編集部の全編集部員による二次選考を行い、文章力、テーマ、独創性、書き手としての将来性、読者への満足度などの観点から詳細に検討し、次の五作が最終選考の対象となる候補作として選出されました。

☆第十八回小学館文庫小説賞最終候補作

『君のいない町が白く染まる時』安倍雄太郎(東京都・二十五歳)
『実のなる庭』小島なみ(神奈川県・四十五歳)
『グラン・ゾーギュスタン街七番地』小早川真彦 (群馬県・五十四歳)
『あの時のカモメ』西村昇(京都府・三十九歳)
『眠りの森のバンパイア』横邊愛恵(東京都・五十二歳)
(年齢は応募時)
上記の五作について、小学館出版局文芸の全編集部員による最終選考会を開き、さらに議論を重ねた結果、安倍雄太郎さんの『君のいない町が白く染まる時』を、第十八回小学館文庫小説賞受賞作に選出しました。
安倍雄太郎さんには記念品と副賞百万円を贈り、受賞作は近日中に小学館より刊行いたします。

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受賞の言葉

安倍雄太郎 (あべ・ゆうたろう)

一九九一年、東京都台東区生まれ。学習院大学経済学部経営学科卒業。中高では剣道部で主将を務め、大学では演劇サークルに所属。趣味は読書、カラオケ、書道、日本舞踊など。好きなものはコーヒーと猫、苦手なものは仕事とスポーツ。小学校時代から小説家に憧れ、現在は都内で会社員として働きながら、専業作家を目指して執筆を続けている。好きな作家は森見登美彦、伊藤計劃、小野不由美、スティーブン・キング。


小説というものは本当に不思議です。それは間違いなく作り話で、どうしようもなく嘘の物語で、会ったこともない他人が書いているはずなのに、時折、自分のために書かれたとしか思えないような言葉に出会うことがあります。そこには優しい言葉だけでなく、悲しい言葉や、毒々しい言葉もあって、現実以上にリアルな感情が隠されていたりします。
思っていても口に出せない言葉って、誰にでもあるはずです。それはもちろん僕にもあります。友人にも、恋人にも、どんなに親しい人にも、普段は言えないような言葉があります。けれど、口に出せないような言葉であるほどに、本当は誰かに伝えたい大切な気持ちだったりします。僕にとって小説というものは、そんな気持ちを表現するための手段なのです。自分の中に溜め込んでいる感情を吐き出すために、小説を書こうとしています。自分の口からは言えないことでも、架空のストーリーに乗せて、架空のキャラクターに喋らせれば、不思議とうまく言葉にすることが出来るのです。フィクションや嘘だからこそ、表現できる言葉がある。心の奥底に眠る本当に大切な心を呟くことができる。顔も知らない誰かにだからこそ、思っていることをそのままぶつけられる。読む方だって、面と向かっては恥ずかしくても、知らない誰かの作り話だからこそ素直に受け取れる言葉がある。もしかしたら、小説の尊さというものは、そんなところにあるのかもしれません。
僕はこれからもできる限り小説を書いていこうと思います。良い作品を書いていけるかはよく分かりません。ただ、誰か一人にだけでもいいので、心に残るような文章や言葉が一つでも残せたら、どんなに嬉しいだろうと思います。
最後になりますが、僕の拙い作品を読み、評価してくださった編集部の皆様に、心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

小学館文庫小説賞 受賞作一覧

第一回  『感染〜infection〜』 仙川 環 (佳作)『神隠し』 竹内 大 (佳作)『枯れてたまるか探偵団』 岡田斎志
第二回  『秋の金魚』 河治和香 (佳作)『if』 知念里佳
第三回  『テロリストが夢見た桜』 大石直紀
第四回  『ベイビーシャワー』 山田あかね (佳作)『キリハラキリコ』 紺野キリフキ
第五回  『リアル・ヴィジョン』 山形由純
第六回  『あなたへ』 河崎愛恵
第七回   受賞作なし
第八回  『パークチルドレン』 石野文香 『廓の与右衛門 控え帳』 中嶋 隆
第九回  『千の花になって』 斉木香津 (優秀賞)『ある意味、ホームレスみたいなものですが、なにか?』 藤井建司 (佳作)『秘密の花園』 泉スージー
第十回  『神様のカルテ』 夏川草介
第十一回 『恋の手本となりにけり』 永井紗耶子
第十二回 『マンゴスチンの恋人』 遠野りりこ (優秀賞)『時計塔のある町』 古賀千冬
第十三回 『薔薇とビスケット』 桐衣朝子
第十四回 『ドランク チェンジ』 八坂堂 蓮
第十五回 『ハガキ職人カタギ!』 風 カオル
第十六回 『ヒトリコ』 額賀澪
第十七回 『そして灰色に融ける』 鳥海嶺 (優秀賞)『猫町くんと猫と黒猫』樒屋京介