選考経過

 第十九回小学館文庫小説賞は二〇一六年十月から二〇一七年九月末日まで募集され、百七十篇のご応募をいただきました。
 選考は応募作の中から候補作を絞り込む一次選考、候補作の中から最終候補作を選ぶ二次選考、そして小学館文庫小説賞受賞作を決定する最終選考の三段階を経て行われました。
 一次選考を通過したのは以下の十二篇です。

『沖遠く泳ぐなり』藤倉信/『神楽坂めし』三岡雅晃/『ポップンロール!』範田浩/『ぼくはスタンガン強盗だけど、暴力も〇〇〇も殺人もキライだ!』高橋恵/『楽園の庭』若林さおり/『神と試験、そして歌』高橋和古/『グリーディー・ラメ』西川浩/『庭幻影』秋山靖/『セレモニー』長月雨音/『闇鍋とミルフィーユ』大橋慶三/『人狼について、知らなくてもいい、いくつかのこと』アオヤギシン/『ファミリー・アフェアー』ふるたひろし(応募受付順)

 以上十二篇の作品について、小学館出版局文芸グループの全編集部員による二次選考を行い、文章力、テーマ、独創性、書き手としての将来性、読者への満足度などの観点から詳細に検討し、次の四篇が最終選考の対象となる候補作として選出されました。

☆第十九回小学館文庫小説賞最終候補作

『セレモニー』長月雨音(東京都・四〇歳)
『楽園の庭』若林さおり(神奈川県・六十三歳)
『ファミリー・アフェアー』ふるたひろし(東京都・五十三歳)
『ポップンロール!』範田浩(神奈川県・四十四歳)
(住所・年齢は応募時)
上記の四篇について、小学館出版局文芸グループの全編集部員による最終選考会を開き、さらに議論を重ねた結果、長月雨音さんの『ほどなく、お別れです』(『セレモニー』改題)を第十九回小学館文庫小説賞受賞作に、選出しました。
長月雨音さんには記念品と副賞百万円を贈り、受賞作は近日中に小学館より刊行いたします。

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受賞の言葉

長月雨音 (ながつき・あまね)

一九七七年、新潟県生まれ。妙高山の雄大な姿を日々眺めながら大自然の中で育つ。大正大学文学部日本語・日本文学科卒業。主に古典文学を学び、舞台となった古刹を巡ることが趣味。好きなことは読むことと書くこと、博物館、鳥獣戯画と奈良公園の鹿。食べ物と飲食店の雰囲気、接客も好きで、長く飲食業に従事している。苦手なものは生のお魚。夢は小説家になること。特に好きな作家は北方謙三、皆川博子。


 私の未熟な文章を読んでくださった、編集部の皆様に心より感謝を申し上げます。
 今回賞に選んでいただき、嬉しいと同時に信じられない気持ちでいっぱいです。
 子供の時から、読むことと同じくらい書くことが好きでした。自分の読みたいものをひたすら書く、そして読む。それだけで何時間も過ごせる子供でした。誰にも自分の書いたものを読んでもらったこともなく、家族や友人にも、私が小説を書いていることは知らせていませんでした。本当に、自分のためだけの物語だったのです。
 でも、それがいつからか変わりました。自分の思いを伝えたいと思ったのです。私は毎日何かしら小説を読んでいます。自分が成長し、世の中の色々なことを知り、人生の経験を積むにつれ、その時々の状況や感情にぴったりと合致し、まるで自分のことのように感じられる小説があります。そこには、自分では形にできなかった思いが、しっかりと文字になって表れていて、感動を覚えることすらあります。どれだけ勇気づけられたか分かりません。そんな小説の書き手はどれだけの言葉を抱えているのだろうと、不思議に思います。小説は自由です。現実ではありえないことも、小説ではありえる。しかし、それもなんらかの経験がなくては、決して生まれることのない物語だと思います。それを生み出すことのできる、豊かな想像力と言葉を操る作家を目指したいです。
 私は数年前に、夫の介護と死別を経験しました。精も根も尽き果てたその時も、支えとなってくれたのは小説です。そこには私と同じように傷ついた人や、それに寄り添う言葉、まだ何かをやれるという気持ちにしてくれる言葉が溢れていました。私は救われたのです。
 人間の感情は不思議です。いつもいろいろなことを考え、それがこの体のどこに収まっているのかと思うくらい、溢れ出ることがあります。それを丁寧に綴って、誰かの心に寄り添える一冊を書くことができたら幸せです。もちろん、つらい時に現実を忘れるくらい夢中になれる楽しい小説も書いて恩返しをしたいです。本当にありがとうございました。

小学館文庫小説賞 受賞作一覧

第一回  『感染〜infection〜』 仙川 環 (佳作)『神隠し』 竹内 大 (佳作)『枯れてたまるか探偵団』 岡田斎志
第二回  『秋の金魚』 河治和香 (佳作)『if』 知念里佳
第三回  『テロリストが夢見た桜』 大石直紀
第四回  『ベイビーシャワー』 山田あかね (佳作)『キリハラキリコ』 紺野キリフキ
第五回  『リアル・ヴィジョン』 山形由純
第六回  『あなたへ』 河崎愛恵
第七回   受賞作なし
第八回  『パークチルドレン』 石野文香 『廓の与右衛門 控え帳』 中嶋 隆
第九回  『千の花になって』 斉木香津 (優秀賞)『ある意味、ホームレスみたいなものですが、なにか?』 藤井建司 (佳作)『秘密の花園』 泉スージー
第十回  『神様のカルテ』 夏川草介
第十一回 『恋の手本となりにけり』 永井紗耶子
第十二回 『マンゴスチンの恋人』 遠野りりこ (優秀賞)『時計塔のある町』 古賀千冬
第十三回 『薔薇とビスケット』 桐衣朝子
第十四回 『ドランク チェンジ』 八坂堂 蓮
第十五回 『ハガキ職人カタギ!』 風 カオル
第十六回 『ヒトリコ』 額賀澪
第十七回 『そして灰色に融ける』 鳥海嶺 (優秀賞)『猫町くんと猫と黒猫』樒屋京介
第十八回 『君のいない町が白く染まる』 安倍雄太郎