Yoshino 吉野|南朝終焉の地をめぐる旅

『世界の中心で、愛をさけぶ』の
片山恭一が行く

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九州を一周する豪華寝台列車「ななつ星」に疑問を持ち、真の旅を追求する「シニア・モーター・ダイアリーズ」今回は片山・小平のシニア二人組が吉野を旅した。

第七話

 お腹が空いたので昼ごはんにする。さて何を食べようか。吉野といえば葛である。『吉野葛』という谷崎潤一郎の小説がある。やはり母恋いを主題としている。「やはり」というのは、この小説が人形浄瑠璃や歌舞伎で有名な「葛の葉」をベースにしていると思われるからで、こちらは人間に化けた白ギツネが、子どもを儲けたのち、正体を知られて山へ帰っていくという話。ぼくは学生のころ、桂枝雀の落語で聞いたことがある。ものすごく面白かったので、いまでもおぼえているが、目下の案件は昼飯に何を食べるかである。

 先ほどから「葛うどん」という幟(のぼり)が気になっている。参道の両側に何軒も目に付く。店によってレシピはいろいろで、天ぷらが付いているのもあれば、胡麻豆腐や柿の葉寿司とセットになっているのもある。山菜入りっていうのも美味しそうだ。迷った末に入ったお店のうどんはシンプルな釜揚げ。普通の讃岐うどんなどよりも、少し細めの麺をネギや生姜などの薬味でいただく。とても繊細で上品な味だ。ほんのり葛の香り(だろうか?)がする。柿の葉寿司も勧められたので一緒に注文する。こちらは一口大の酢飯を鯖の切り身と合わせて、柿の葉でくるんだおなじみのもの。小さいので二つ食べても大丈夫だ。

 小平さんは葛切りと葛餅も食べたそうだ。
「あのねえ、ぼくたちもそろそろ糖質控えめを心がけたほうがいいですよ」
「そりゃあそうだけど、せっかく吉野に来たんだからさ」

 いつもこうなんだから。せっかく○○へ来たんだから、という口実をつけてお餅やお団子みたいな、甘味のものを注文してしまう小平さん。家では間食をしないことにしているぼくも、もともと甘いものは嫌いではないから、こういう機会にはお相伴にあずかってしまう。
「写真も撮りたいからね」
「まあ、取材の一部ということで」

 いろいろと言い訳の多いシニアなのである。いくらか分別のあるところを見せて、葛切りも葛餅も、それぞれ一人前を半分ずつ食べることにした。
「そういえば、たい焼きを半分こして食べたこともありましたね」
「良識あるシニアだからね、ぼくたちは」
「最近は日本酒も飲みませんしね」
「ビールだってグラス一杯だし」
「ミドリムシ・サプリはまだ飲んでるんですか」
「うん、飲んでる。でも、このあいだ健康診断で測ったら中性脂肪の値は変わってないんだよ。効いてるのかな」
「変化なしってことは効いてるんじゃないですか」
「そう考えたいよね。あれ結構高いんだ」

 葛切りも葛餅も、きな粉や黒砂糖の蜜をかけて食べる。控えめな甘味が、いかにも身体にやさしいスイーツといった感じ、などとテレビショッピングみたいな口上を思い浮かべながら、仲良くシェアして葛切りと葛餅を食べるぼくたちであった。 (旅日時:2016年3月9〜12日)>>つづく