小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第15回
  • 2017年3月更新
ホウボウ科〜海底を「歩く」魚たち〜
ホウボウ・カナガシラ
カナド・オニカナガシラなど
胸鰭にある3本の遊離軟条をまるで指のように動かして、餌生物を探すホウボウ科の魚たち。その様子は、まるで海底を「歩いて」いるようにも見えます。そしてその遊離軟条には、なんと「味」を感じる細胞があるのです!
ホウボウ科 Triglidae

頭部は骨質の甲で被われ、吻棘がある。胸鰭は上部が大きく下部の3軟条は遊離。胸鰭の遊離軟条を指のように動かし、海底に潜む餌生物を探索、これらの表皮中に味蕾に類似した細胞がある。世界の熱帯〜温帯海域に9属約126種、日本に3属19種。

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※SL…標準体長
ホウボウ(ホウボウ属) Chelidonichthys spinosus (McClelland, 1843)

第1・2背鰭の基底両側に1列の小棘のある骨質板、頬部下方に顕著な隆起線がある。胸鰭の内面は鶯色で青色斑が散在し、縁辺部は青色。産卵期は東シナ海では3〜5月、渤海では5〜7月だが、九州近海では12〜翌4月。1歳で体長13〜14cm、2歳で約20cm、3歳で24〜25cm、4歳で28〜29cm、5歳で30〜31cmになる。水深5〜615mの砂泥底に生息し、主に甲殻類と魚類を食べる。北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海・太平洋沿岸、瀬戸内海、東シナ海大陸棚域、渤海、黄海、朝鮮半島全沿岸、中国東シナ海・南シナ海沿岸に分布。肉は白身で本科中最も美味、市場価値は高い。

カナガシラ(カナガシラ属) Lepidotrigla microptera Günther, 1873

吻棘は1本のやや長い棘とその内側に並ぶ4〜5本の微小棘からなる。胸鰭内面は通常赤橙〜赤色で顕著な模様がないが、変異が多い。産卵期は陸奥湾で5〜8月、瀬戸内海で2〜6月、山口県沖では2〜5月、東シナ海・黄海・渤海の産卵盛期は5〜6月。1歳で体長約10cm、2歳で約15cm、3歳で約19cm、4歳で20〜21cm、5歳で約23cmになる。水深20〜100mの大陸棚砂泥底に生息し、魚類、エビ類、ヨコエビ類、アミ類などを食べる。北海道〜九州南岸の各地沿岸、瀬戸内海、朝鮮半島南西岸、渤海、黄海、済州島、東シナ海中部以北に分布。旬は冬、洋食や和食の食材や練り製品の原料。

カナド(カナガシラ属) Lepidotrigla guentheri Hilgendorf, 1879

背鰭第2棘は第1棘より著しく長い。胸鰭内面は下部に虫食い状の白〜青色斑を含む大黒斑、縁辺は薄い赤褐色。産卵期は東シナ海では4〜6月と9〜翌1月、愛媛県や宮崎県では周年、九州では冬季。東シナ海では1歳で体長8cm、2歳で16cmになる。水深60〜350mの砂泥底に生息し、小魚、エビ・カニ類、エビジャコ類、多毛類などを食べる。青森県〜九州南岸の各地沿岸(東北地方沿岸は少ない)、瀬戸内海、東シナ海大陸棚域、朝鮮半島南岸に分布。練製品、塩焼、煮付け、味噌汁で食される。美味。

ソコカナガシラ(カナガシラ属) Lepidotrigla abyssalis Jordan and Starks, 1904

両眼間隔は左右の吻棘間より広い。胸鰭は内面がうぐいす色で縁辺は赤黒色。冬季に産卵。水深35〜415mの砂泥底に生息し、エビ・カニ類、魚類を食べる。新潟県〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、鹿島灘〜九州南岸の太平洋沿岸、東シナ海大陸棚縁辺域、朝鮮半島南岸、中国東シナ海沿岸に分布。市場価値は低くおもに練製品の原料。

オニカナガシラ(カナガシラ属) Lepidotrigla kishinouyei Snyder, 1911

吻棘は隅角部の1棘が内側の多くの棘より顕著に長い。胸鰭内面は下部に青〜白色の小斑点が散在する大黒斑がある。東シナ海における産卵期は1〜2月、体長9〜10cmでは6割強が成熟、16cmですべてが産卵に関与。水深30〜145mの砂泥底に生息し、エビ・カニ類、魚類、ヨコエビ類を食べる。新潟県〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、千葉県銚子〜九州南岸の太平洋沿岸、瀬戸内海、東シナ海大陸棚全域、朝鮮半島南岸。天ぷらで美味。練製品の材料や総菜用。

トゲカナガシラ(カナガシラ属) Lepidotrigla japonica (Bleeker, 1854)

胸鰭は大きい。胸鰭の内面は青色で縁どられ、内側半分は楕円状の大黒班、黒班より上方は緑黄色の地に青色の流状班がある。産卵期は、東シナ海では1〜2月、愛媛県や宮崎県では9〜11月と2月。東シナ海では、体長12cmで成熟する個体が見られる。産卵場は東シナ海では、水深100m前後の海域と考えられている。水深30〜130mの砂泥底に生息し、エビ・カニ類、魚類を食べる。兵庫県浜坂〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、千葉県外房〜九州南岸の太平洋沿岸、瀬戸内海、東シナ海中部以南の大陸棚域〜中国の南シナ海沿岸、朝鮮半島南岸、小スンダ列島南岸に分布。練製品の材料。

柳下直己(長崎大学准教授)
編集長の一口コラム

今月のお題は「ホウボウ科」。せっかくなので、近縁のカナガシラとの食べ比べをしてみることにしました。ホウボウは東京近郊のスーパーでもよく見かけますが、カナガシラは…正直注目することのなかった魚です。以前見かけた淡い記憶を頼りに、今回も築地で調査を開始しました。しかし…いない。ホウボウは多くの仲買さんが扱っていましたが、カナガシラは「あまり入らないねえ」とつれない返答ばかり。今回も苦戦しそうです。
そこで、いつもお世話になっている房総の漁師さんをはじめ、可能性のありそうなところに「見かけたら送ってください!」とお頼みしておきました。
カナガシラを待っている間、まずは容易に手に入るホウボウから。
扱ったのは、五島産の全長36cmの立派な個体。頭を見ると、今回の解説文どおり「頭部は骨質の甲で被われて」います。そして胸鰭にある3本の遊離軟条。この足のような軟条を使って、海底の生物を探します。以前、映像でその様子を見る機会があったのですが、まるでピアノを弾く指のように器用に動かしておりました。まるで海底を歩いているようにも見えます。そして軟条の表皮にはなんと、味覚を感じる細胞があるとのこと。「味見のできる指先」…ヒトにもあったら、意外と便利かもしれません。
身は、美しい白身です。刺身にしますと、ほのかに脂味の乗った、なじみのある甘味が口内に広がりました。ホウボウは旨味が強い魚です。熟成させなくても、十分楽しめる旨味です。歯触りもほどよく「くにゅくにゅ」していて素晴らしい。慣れてはいる魚ですが、しばし手を止めて口幸を堪能しました。ためしに2日間熟成させたところ…予想通りさらに旨味が倍増。最高の刺身になりました。
1週間後…依頼しておいた魚屋さんから、「カナガシラ入りましたよ。」と嬉しい知らせが。いわゆる「通販」であります。「ありがとうございます!」と嬉しさいっぱいで即日送っていただきました。鳥取県産の全長27cm、重さ200gの立派なサイズ。刺し網で獲れているそうです。1尾360円也。送料のほうがずっと高い。
こちらも早速解体。捌いているときから、ホウボウより柔らかい身だなと感じました。そして刺身…ん?ホウボウよりも明らかに水っぽい。旨味も乏しいなあ…。歯ごたえもホウボウに劣り、正直「イマイチ」の感じでした。この魚はおそらく、一夜干しやフライなどにすると良さそうです。5尾買ったので、いろいろ試してみることにしました。
そして同じタイミングで、房総の漁師さんから「獲れましたよ」とまたしても嬉しい知らせが。定置網で獲れたそうです。「オニカナガシラかトゲカナガシラかわからないけど」という注釈付きです。おお、これでホウボウ科3種の食べ比べができる。こちらも早速送っていただきました。
『魚類検索第3版』などを片手に調べてみますと、オニカナガシラに間違いない。大きな胸鰭の青い斑紋が美しく、しばし見入ってしまいました。吻が短く、ホウボウに比べるとかわいらしい印象です。
全長16cmと小型ですので、身もわずか。小さい刺身にして口に入れますと…むむ、カナガシラよりさらに水っぽい。そして旨味もない…。歯ごたえもカナガシラよりもさらに劣り、やはり今一つの印象でした。
今回のホウボウ科3種の味わいに順位をつけますと、刺身に限って、ホウボウ>カナガシラ>オニカナガシラ の順になり、ホウボウが「ホウボウ科の王様」である、というごく私的結論になりました。
それぞれの魚は、結構余りましたので、ほかにもいろいろ試してみました。中でも、ホウボウの味噌汁は旨味が強く、滋味あふれる逸品でした。また意外だったのが「オニカナガシラの天ぷら」。コロモをつけて揚げてみますと、何とも香ばしいにおいが。そして、うまい! 上質の白身が揚げ物によく合い、ホクホクしています。あの水っぽい刺身が化けた! 硬そうな頭もサクッと食べられ、シロギスの天ぷらにも負けないような一級品になりました。(編集部・K)

  • ホウボウ(五島産 全長36cm)
  • 頭部が大きく、骨質の甲は硬くて丈夫。
  • これが胸鰭遊離軟条。関節はないのに、良く曲がる!
  • ホウボウの刺身。文句なしの旨さ。
  • 焼霜造りもやってみました。皮が硬く脂身がないのでイマイチ。
  • 2日間熟成の刺身。旨味が倍増して絶品でした。
  • カナガシラ(島根産 全長27cm)
  • カナガシラの刺身。美しいが、水っぽい。
  • カナガシラの焼霜作り
  • オニカナガシラ(房総産 全長16cm)
  • オニカナガシラの胸鰭。この模様が同定の決め手に。
  • オニカナガシラの刺身。これも水っぽい…。
  • オニカナガシラの焼霜造り
  • ホウボウの味噌汁。旨味がつよく絶品!
  • カナガシラのアクアパッツァ。淡白でよいおかずに。
  • カナガシラの昆布締め。やはり旨味が今一つでした…。
  • オニカナガシラの天ぷら。よく見ると、遊離軟条も残っております。