小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、
研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第17回
  • 2017年5月更新
ハマダイ〜南の海に見られる、赤くて美味しい高級魚〜
ハマダイ・ハチジョウアカムツ
ヒメダイ、ハチビキなど
アカマチと呼ばれ、沖縄県で三大高級魚とされるハマダイをはじめ、水産重要種が多いハマダイ属、アオダイ属、ヒメダイ属…。今月は、そんなフエダイ科の一部と、ハチビキ科の魚たちを紹介します。
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※FL…尾叉長
アオチビキ(アオチビキ属) Aprion virescens Valenciennes, 1830

岩礁・サンゴ礁域に生息。体は細長く、眼の前から鼻孔上に溝がある。体色は一様に青緑色で、背鰭中部根元の鰭膜に黒斑がある。南日本太平洋沿岸(散発的)、琉球列島、インド−太平洋に分布。魚食性が強く、大物釣りの対象。沖縄でオーマチと呼ばれ食される。

オオグチイシチビキ(イシフエダイ属) Aphareus rutilans Cuvier, 1830

沖合の水深120〜200mの深場に生息。名の通り口が大きく、下顎が突出し、顎の後端は眼の中央下に達する。尾鰭の先端は尖り、中央部は切れ込む。本種が薄い赤褐色で深場に生息するのに対し、同属のイシフエダイは青緑褐色で沿岸近くに生息する。南日本太平洋沿岸(散発的)、琉球列島、インド−太平洋に分布。沖縄でタイクチャーマチと呼ばれ食される。

ハマダイ(ハマダイ属) Etelis coruscans Valenciennes, 1862

沖合の水深250〜350mの深場に生息。体は鮮やかな赤色で、尾鰭後端、特に上葉が伸長する。南日本太平洋沿岸(散発的)、伊豆諸島以南、琉球列島、インド−太平洋に分布。関東でオナガ、沖縄でアカマチと呼ばれる水産重要種。沖縄県では三大高級魚の一つ。

ハチジョウアカムツ(ハマダイ属) Etelis carbunculus Cuvier, 1828

沖合の水深250〜350mの深場に生息。体は桃色で、尾鰭後端は伸長しない。南日本太平洋沿岸(散発的)、伊豆諸島以南、琉球列島、インド−太平洋に分布。沖縄でヒーランマチと呼ばれ食される。

アオダイ(アオダイ属) Paracaesio caerulea (Katayama, 1934)

沖合の水深150〜250mの深場に生息。体は青く、鰭は黄褐色。伊豆・小笠原諸島、相模湾〜台湾に分布。近年ニューカレドニアからも記録されている。沖縄でシチューマチと呼ばれる水産重要種。

ウメイロ(アオダイ属) Paracaesio xanthura (Bleeker, 1869)

沿岸から沖合の岩礁域に群れで生息。体は前半で青く、後半背側から尾鰭にかけて黄色。本種に色彩の酷似するタカサゴ科のウメイロモドキは、胸鰭の付け根が黒く、背鰭と臀鰭の基部を鱗が被うことで識別可能。南日本太平洋沿岸、伊豆諸島以南、琉球列島、インド−太平洋に分布。食用種。

ヒメダイ(ヒメダイ属) Pristipomoides sieboldii  (Bleeker, 1855)

沖合の水深200〜300mの深場に生息。体は淡い赤褐色で、鮮度が良いものはやや青っぽい。南日本太平洋沿岸(散発的)、琉球列島、インド−太平洋に分布。沖縄でクルキンマチと呼ばれる水産重要種。

オオヒメ(ヒメダイ属) Pristipomoides filamentosus (Valenciennes, 1830)

沖合の水深120〜200mの深場に生息。体は淡い赤褐色で、尾鰭の縁は赤色。ハワイの研究では、40歳以上の個体が知られている。南日本太平洋沿岸(散発的)、琉球列島、インド−太平洋に分布。沖縄でマーマチと呼ばれる水産重要種。

ハナフエダイ(ヒメダイ属) Pristipomoides argyrogrammicus (Valenciennes, 1832)

沖合の水深250〜350mの深場に生息。体は桃色で、背部に黄色の斑が4つ、体側に青白い点列が数本並ぶ。背鰭と尾鰭は黄色で、縁が白い。南日本太平洋沿岸(散発的)、琉球列島、インド−太平洋に分布。八重山諸島での主な産卵期は4〜8月。雄が大きくなる。沖縄でフカヤービタローと呼ばれる水産重要種。

ハチビキ(ハチビキ属) Erythrocles schlegelii (Richardson, 1846)

沖合の水深300〜380mに生息。体は背から腹にかけて赤褐色〜赤色。尾柄部に明瞭な1隆起線がある。千葉県〜九州南岸の太平洋沿岸、新潟県〜九州北岸の日本海沿岸、琉球列島、インド−太平洋(局所的)に分布。沖縄ではハマダイを狙った深場の一本釣りによって混獲される。チョーチンマチと呼ばれ刺身などで賞味されるが、身が赤く、傷みが早いので流通しない。

ロウソクチビキ(ロウソクチビキ属) Emmelichthys struhsakeri Heemstra & Randall, 1977

沖合の水深200〜360mに生息。尾柄部に隆起線がなく、眼が大きい。主に房総半島以南の太平洋沿岸と琉球列島(散発的)、西−中央太平洋(局所的)に分布。

下瀬 環(西海区水産研究所)
編集長の一口コラム

かねてより、ずっと気になっていた魚がありました。その魚の名は「ハマダイ」。沖縄に行くと食べる機会の多い魚です。しかし、どうも旨いと感じたことがない…日頃、マイワシやマアジ、マサバなど旨味の濃い魚に慣れてしまっているせいか、味が希薄に思えてしまうのかもしれません。一方、沖縄では「三大高級魚」とされているらしい。それではと、ハマダイの何たるかを知る為に、今回は敢えて近縁種の食べ比べをしてみることにしました。
5月某日、場所はいつもどおりの築地市場。一回りしますと、ハマダイをはじめ、ハチジョウアカムツ、ヒメダイ、ハチビキの4種を買うことが出来ました。いずれも長崎産とのこと。ハチビキだけ、科が異なります。さっそく家に持ち帰り、捌いてみることにしました。
4種を並べてみますと、総じて赤っぽく美しい魚です。まずはハマダイ。全長33cmの子どもサイズ。大きいのは高値で買うことが出来ず。ちょっと思い切りが悪かったような…。3枚におろしてみますと、身の白さ、血合いのグラデーションの感じなど、どこかイサキに似ています。刺身の味は…やはり。あっさりしていて、極めてふつうであります。旨味も感じず、やはりサイズが悪かったか…。
次は、ハチジョウアカムツ。全長31cmと、こちらも小型サイズ。身の透明感、血合いの色など、ハマダイによく似ています。刺身のお味は…はじめはあっさり、噛んでいるとわずかに苦みが感じられます。ハマダイに比べ、やや身に締まりがないような食感でした。
お次はヒメダイ。こちらは全長38cm。中型サイズであります。身の色は、やはりハマダイに似ています。刺身は、はじめあっさり、噛んでいるうちに次第にねっとりとした食感に変わり、脂の旨味、甘味が出てきてすこぶる美味になりました。あまり期待していなかったのですが、これは旨い! 今回のヒットであります。少し大きめで、脂が乗っていたのもよかったのかもしれません。
面白かったのは、最後のハチビキ。全長39cmと、こちらも中型です。捌いてびっくり。この魚は身が濃いピンク色で、前3種と明らかに異なります。身を並べてみても、全然違う。科が違うというのは、このようなことか…。刺身は、他の3種と比べ、柔らかい触感。あっさりしているが、わずかに血合いのような旨味があり、脂の甘さもある。見かけ以上に旨い魚でした。
4種とも、切り身を一晩寝かせて塩焼きに。ハマダイは寝かせたことにより旨味が増し、絶品の塩焼きになりました。もっと成長して、皮目に脂が乗ってきたら、申しぶんないのではないか。ハチジョウアカムツは、やはり身にやや締まりがないのですが、基本的にはハマダイと一緒でした。そしてヒメダイ。皮目のほどよい脂が旨く、最高であります。これは文句なし、高級魚と言って良いのではないか。今回4種のうちの文句なしのチャンピオンでした。ハチビキは、やはり刺身同様わずかな血合い臭があり、他3種と明らかに異なりました。皮目の脂が旨く、絶品でした。
今回、ハチビキ科のハチビキをのぞくフエダイ科3種の食味の傾向は同じでしたが、旨さの順位は @ヒメダイ Aハマダイ Bハチジョウアカムツ になりました。とくにヒメダイ、ハマダイの順位は、個体のサイズや状態などで、容易に入れ替わると思われます。今回のヒメダイは、予想以上に旨い魚でした。そして近縁でも科が違うとここまで食味が異なるか、と驚いたのがハチビキです。赤みが強く野趣溢れる趣でしたが、なんだか癖になりそうです。
刺身は、せっかくなのでハマダイの姿造りに。食卓が一気に南国っぽく華やかになりました。

  • ハマダイ(左)の姿造り。沖縄の居酒屋で。
  • 今回もやってきました築地市場。
  • ハチビキ。長崎産です。
  • 上からヒメダイ、ハチビキ、ハマダイ、ハチジョウアカムツ。
  • ハマダイ。オナガダイとも呼ばれるだけあって、尾鰭が長い。
  • ハマダイの身。透明感があり、見るからにあっさりしていそうです。
  • ハチジョウアカムツ
  • ハチジョウアカムツの身の感じはハマダイと同じ。
  • ヒメダイ
  • ヒメダイの身の色もハマダイと同じ感じ。
  • ハチビキ
  • ハチビキは、驚きの赤い身でした。
  • 4種の刺身を並べる。
  • ハマダイの塩焼き
  • ハチジョウアカムツの塩焼き
  • ヒメダイの塩焼き
  • ハチビキの塩焼き
  • 姿造り。主役はハマダイです。