小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、
研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第18回
  • 2017年6月更新
アカヤガラ〜見た目からは想像できない、白身が美味な高級魚〜
ヤガラ科・サギフエ科
ヘコアユ科など
極端に長い吻と体が特徴的なアカヤガラ。料亭の椀種などに使われる高級魚です。今月は、このアカヤガラを中心に、トゲウオ目のなかまの一部を紹介します。
ヤガラ科 Fistulariidae

体は細長く、円筒形でやや縦扁。体表は小棘で被われるが、成魚では消失するものもある。吻は管状で細長く、先端にある口で餌生物を吸い込む。尾鰭は2叉、中央鰭条が長く伸長。インド−太平洋と大西洋の熱帯海域に1属4種、日本に1属2種。

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※SL…標準体長
アカヤガラ(ヤガラ属) Fistularia petimba Lacepède, 1803

生時、体は赤色。両眼間隔域は凹む。背鰭前方と肛門前方の正中線上に細長い鱗がある。尾柄部の側線鱗は先端の尖った後向棘がある。アオヤガラより大型で沖合性。土佐湾では主に水深30〜100m、東シナ海では50〜180m、中国南シナ海北部沿岸では150〜200mに多い。主に魚類やイカ類を食べる。北海道〜九州南岸の各地沿岸、中国東シナ海・南シナ海沿岸、インド−西太平洋、大西洋に分布。底曳網で漁獲され、白身で美味、大型魚は刺身、小型魚は吸物で食される。

アオヤガラ(ヤガラ属) Fistularia commersonii Rüppell, 1838

生時、体は暗青色、暗色横帯が出ることがある。背鰭前方と肛門前方の正中線上は無鱗、尾柄部の側線鱗に鋭い後向棘がない。尾鰭の伸長鰭条は吻より短い。北海道〜九州南岸の各地沿岸、琉球列島、山東省〜広東省の中国沿岸、インド−汎太平洋に分布。

サギフエ科 Macroramphosidae

体は側扁、吻は管状に伸長、口はその先端で小さい。4〜8本の背鰭の棘は第2棘が長い。大きいものは体長30cm。インド洋、太平洋、大西洋の熱帯〜温帯域に3属約11種、日本に1属2種。

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※SL…標準体長
サギフエ(サギフエ属) Macroramphosus sagifue Jordan and Starks, 1902

体は鮮やかな薄紅色。背鰭第2棘は後縁は鋸歯状、倒すと先端は尾鰭基部に達する。500m以浅の砂底に生息。通常は頭がやや下向きの状態で遊泳、移動や摂餌の際は水平で泳ぐ。北海道南部〜兵庫県浜坂の日本海沿岸、相模湾〜九州南岸の太平洋沿岸、東シナ海大陸棚縁辺域に分布。底曳網で大量にとれる。

ダイコクサギフエ(サギフエ属) Macroramphosus japonicus (Günther, 1861)

体色は紅褐色で、暗褐色の規則的な虫食模様がある。背鰭第2棘は後縁に鋸歯がないか、あっても弱く、倒すと先端は尾鰭基部に達しない。500m以浅の砂底に生息。相模湾〜九州南岸の太平洋沿岸、東シナ海大陸棚縁辺域に分布。底曵網などでサギフエと混獲される。

へコアユ科 Centriscidae

体は著しく側扁、硬い平滑な小骨板で被われる。吻は管状、口はその先端に小さく開く。インド−西太平洋に2属4種、日本に2属2種。

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※TL…全長
へコアユ(ヘコアユ属) Aeoliscus strigatus

体の後端に可動性の強い背鰭第1棘、その腹側に背鰭鰭条、そのやや前方の腹側に尾鰭がある。浅海のサンゴ礁の隙間や海草が生えている砂地海岸などで、頭を下にして群れで泳ぐ。相模湾〜屋久島の太平洋沿岸(散発的)、琉球列島、インド−西太平洋に分布。

カミソリウオ科 Solenostomidae

体は全体がよく側扁。吻は伸長、口はその先端で小さい。腹鰭や尾鰭は大きい。雌は腹鰭が癒合した育児嚢で卵を保護。インド−太平洋域に1属約4種、日本に3種。

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※TL…全長
カミソリウオ(カミソリウオ属) Solenostomus cyanopterus Bleeker, 1854

体色は変異が多く褐色や黄緑、赤、黒色。サンゴ礁域やその周辺に生息し、藻場などで雌雄ペアがみられる。頭を下にして海藻のくずが漂うような動きで泳ぐ。相模湾〜屋久島の太平洋沿岸、琉球列島、インド−西太平洋に分布。

ニシキフウライウオ(カミソリウオ属) Solenostomus paradoxus (Pallas, 1770)

鰭や体に細い皮弁がある。ウミシダ類やウミトサカ類の周辺に生息。伊豆大島、八丈島、相模湾〜宿毛湾の太平洋沿岸、長崎県、屋久島、琉球列島、台湾、インド−西太平洋(局所的)に分布。

ウミテング科 Pegasidae

体は従扁、固い骨板で被われる。胸鰭は大きい。吻はヘラ状や棒状。口は吻の下面で歯はない。腹鰭で歩くようにゆっくり海底を移動する。大きくても体長14cm。水深150m以浅の砂底に生息。インド−西太平洋の熱帯〜温帯域に2属5種、日本に2属3種。

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※SL…標準体長
ウミテング(ウミテング属) Eurypegasus draconis (Linneaus, 1766)

体の背面の隆起が大きく、尾輪数は8−9。浅海の砂底に生息、雌雄ペアが多い。伊豆−小笠原諸島、相模湾〜屋久島の太平洋沿岸、琉球列島、インド−太平洋に分布。

ヤリテング(テングノオトシゴ属) Pegasus volitans Linnaeus, 1758

体と吻がウミテングより細長く、尾輪数は12。沿岸の砂泥底に生息。和歌山県田辺湾、土佐湾、西表島、台湾南部、福建省〜広西省、インド−西太平洋に分布。

ヘラヤガラ科 Aulostomidae

体は細長く、側扁。吻は太い管状で長く、側扁し、先端に口がある。下顎先端にひげがある。尾柄部は細い。インド洋、太平洋、大西洋の熱帯域に1属4種、日本に1種。

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ヘラヤガラ(ヘラヤガラ属) Aulostomus chinensis (Linnaeus, 1766)

サンゴ礁域や岩礁域の水深30m以浅に生息。伊豆−小笠原諸島、相模湾〜九州南岸の太平洋沿岸(散発的)、屋久島、琉球列島、インド−汎太平洋に分布。

片山英里(公益財団法人水産無脊椎動物研究所)
編集長の一口コラム

「アカヤガラの大きい個体はとても旨い」。そんな情報を聞きつけ、梅雨空の6月某日、築地市場にやってきました。アカヤガラの旬は夏といい、まさにタイミング的にもぴったり。これは食べるのが楽しみです。
市場をめぐっていますと、ほどなくアカヤガラを発見しました。鹿児島からはるばるやってきた、全長113cm、重さ1.15kgの中型サイズです。キロあたりなんと2500円。さすが高級魚であります。鮮度も抜群で、すぐに購入することに決めました。
家に持ち帰り、改めて眺めてみますと、極端に長い吻に目が行きます。この魚、吻の先についた口で餌の魚などを吸い込んで食べるといいます。獲物の魚も、何に襲われたのかわからないうちにアカヤガラの胃におさまってしまうのではないでしょうか。何でもこの吻を乾燥したものは、漢方薬として利用されるのだとか。
ひととおり観察した後は、さっそく3枚に下ろしてみました。胃の中からは、何と未消化のマダイの子とおぼしき魚3尾、カタクチイワシ、キビナゴが出現。一番大きいものは全長10cmほどもあります。あの長い吻で吸い取られたのでしょう。恐ろしい…。
アカヤガラは体の真ん中辺りまで硬い骨質板におおわれており、食べられるのは長い体の半分程度。意外と歩留まりの悪い魚です。身は半透明の白身で、見るからに旨そう。待ちきれず、身の端を醤油につけて少し食べてみました。うっ、旨い! 口に入れたとたん、信じられないくらいの甘い味が口腔内に広がりました。これはまさに「旨味」であります。今まで食べてきた魚の中でも最高級の旨味です。この長い魚の想像以上の実力に、早くもひとり大興奮してしまいました。刺身がこれだけ旨いのだから、焼き物はさぞかし…。ぶつ切りにして軽く塩を振り、焼いてみましたところ、これも旨い! たん白な中に強い旨味が凝縮され、これは絶品。最高級の旨さです。あー、シアワセ。この世に生まれてよかった。そう思わずにはいられない逸品でした。そして「アカヤガラと言えばこれ」といわれる調理法、「椀物」であります。今回はアラと昆布で出汁を取り、塩、味醂、酒少々で軽く味付けしてみました。出汁の風味は言わずもがな。素晴らしい旨味です。そしてその中に、さらに旨味の強い肉厚の身。もうこれはたまりません。至福と言わずして何と表現すればよいのか。もう、感動で涙が出てきました。
この個体からは大きな卵巣、肝臓、が出てきましたので、胃を含めて湯がき、「アカヤガラの珍味3種盛り」のような形で食べてみました。胃はコリコリしていて癖がなく、卵巣はねっとりとした舌触りでこれも美味。肝臓は極めて濃厚で、あん肝にそっくりな味わいでした。これらはまさに日本酒にぴったり。少し甘めの冷酒で、最高の晩酌になりました。(編集部・K)

  • 梅雨空の下、やってきました築地市場
  • アカヤガラ登場。キロ2500円也
  • 意外と曲がりにくい体で、持ち帰るのが一苦労
  • 長い吻。このような形の新幹線があったような。
  • 恐怖の口は吻の先に。
  • 意外と大きい眼
  • 尾鰭は真ん中が長く延びている。
  • 旬だけあって、身がパンパンです。
  • 胃内容物
  • 身は、半透明の白身で美しい。
  • お造り。見るからに旨そうです。
  • 塩焼き
  • 椀物
  • 強い旨味の出汁と身。最高の味わいです。
  • 珍味三種盛り。左から卵巣、肝臓、胃