小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、
研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第19回
  • 2017年7月更新
マゴチ〜旬到来!夏に旨い「偏平な頭」〜
マゴチ・ヨシノゴチ・ワニゴチ・メゴチなど
産卵期を控えた盛夏に、ぐっとおいしくなるマゴチ。今月は、旬のマゴチを中心に、コチ科のなかまを紹介します。マゴチの学名は、なんとまだ確定していないのであります。
コチ科 Platycephalidae

体は強く縦扁、頭部に細かい棘が発達する。口は大きく、下顎が上顎よりも前に突出。背鰭は2基。眼に虹彩皮膜と呼ばれる瞳をおおう膜がある。主に水深200m以浅の砂泥底に生息するが、岩礁域やサンゴ礁の砂底に生息するものもいる。小型魚類や甲殻類などを待ち伏せして捕食する。コチ科魚類は、成長に伴って雄から雌へと性転換することが知られている。主にインド−太平洋の熱帯〜温帯域に約18属80種、日本に12属21種。地中海からの報告はスエズ運河を通して、あるいは船のバラスト水によるものと考えられている。

※画像をタップすると拡大して見られます。
※SL…標準体長
マゴチ(コチ属) Platycephalus sp. 1

頭部は強く縦扁しており、棘は弱い。眼が小さく、両眼間隔は広い。ヨシノゴチより、体は黒っぽく、茶褐色のごく小さい斑点が密に並ぶ。産卵期は鹿児島県西部で5〜7月。ヨシノゴチより沿岸域(水深30m以浅)の砂泥底に生息。コチ科魚類は性転換することが知られているが、本種とヨシノゴチでは1歳魚から雌雄ともに見られ、例外的に性転換しない可能性が示唆されている。雌の方が成長は早く、最大体長が65cm程度であるのに対し、雄は40cmに満たない。北海道南部、宮城県〜九州南岸の太平洋沿岸、若狭湾〜九州南岸の日本海・太平洋沿岸、瀬戸内海、種子島に分布。刺網や定置網などで漁獲される高級魚。旬は夏で、薄造りの刺身や、ちり鍋で美味。コチ属魚類は分類が混乱しており、どの種にどの学名を適用すべきなのか、まだ十分に研究されていない。

ヨシノゴチ(コチ属) Platycephalus sp. 2

体はマゴチより白っぽく、背面に散在する褐色点は網目模様をなす。マゴチより少し深い水深25m以深の泥底、あるいは砂混じりの泥底に生息。産卵期は鹿児島県西部で3〜5月で、マゴチより早い。マゴチと同様、雌の方が成長は早く、大きく成長する。神奈川県三崎、瀬戸内海、大阪湾、八代海、九州南部西岸、東シナ海北西部、渤海、黄海、台湾に分布。利用はマゴチと同じ。

ワニゴチ(トカゲゴチ属) Inegocia ochiaii Imamura, 2010

頭部は大きい。眼に複雑な形の虹彩皮膜を持つ。鰓蓋の腹側近くに大きい皮弁がある。体に6つの濃褐色の横帯があり、胸鰭と腹鰭に多くの茶褐色斑がある。水深16〜35mの岩礁に近い砂底に多い。八丈島、房総半島〜屋久島の太平洋沿岸、済州島、台湾、浙江省〜海南島の中国沿岸に分布。

メゴチ(メゴチ属) Suggrundus meerdervoortii (Bleeker, 1860)

体は茶色で濃褐色の斑点が背面に散在する。眼の下には細かい棘が多数並ぶ。第1背鰭後部に黒斑があり、尾鰭に褐色の帯が2本ある。あまり大きくならず、最大体長は21cm(全長で24cm)。全長14cm以下では雌はほとんど見られないが、19cmを超えると逆にほとんどが雌となる。秋田県〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、茨城県〜九州南岸の太平洋沿岸、瀬戸内海、東シナ海大陸棚域、朝鮮半島西岸・南岸に分布。底曳網で漁獲され、練り物などで利用される。なお、関東地方の「めごち」はネズッポ科魚類、特にネズミゴチを指す。

イネゴチ(イネゴチ属) Cociella crocodila (Cuvier, 1829)

体は茶色で濃褐色の斑点が背面に散在するが、この数にはかなりの変異が見られる。第1背鰭は黒く縁取られ、尾鰭には不定形の暗色斑がある。眼の下には3本の棘が並ぶ。最大体長は45cm。体長30cmのころ(5歳前後)から雄から雌へと性転換する。茨城県〜日向灘の太平洋沿岸、瀬戸内海、秋田県〜薩南半島の日本海・東シナ海沿岸、黄海、東シナ海大陸棚域、浙江省〜海南島の中国沿岸に分布。底曳網や刺網などで漁獲、煮付けや練り製品の原料とされる。

オニゴチ(アネサゴチ属) Onigocia spinosa (Temminck and Schlegel, 1843)

側線鱗の前方8〜11枚に強い棘がある。眼の下に細かい棘が多数並ぶ。体は赤みを帯び4本の濃褐色横帯がある。胸鰭の上半分に褐色点がある。腹鰭に広い褐色帯があり、先端は黄色を帯びる。体長10cmほどの小型種で、大陸棚の砂泥底に生息。茨城県〜豊後水道の太平洋沿岸、新潟県〜九州南部西岸の日本海・東シナ海沿岸、瀬戸内海、東シナ海南部大陸棚域、朝鮮半島南岸、済州島、台湾、広東省、フィリピン諸島西岸、アラフラ海・ティモール海〜オーストラリア北西岸に分布。

セレベスゴチ(クロシマゴチ属) Thysanophrys celebica (Bleeker, 1854)

眼の下には細かい棘が多数並び、オニゴチに似るが、体は赤みを帯びず、背鰭後半部は茶褐色。胸鰭と腹鰭に茶褐色の小斑紋が不規則に並ぶ。体長10cmほどの小型種。通常水深20m以浅の岩礁や海藻のある砂底に生息。千葉県館山湾〜鹿児島湾の太平洋沿岸(散発的)、沖縄県伊江島、インド−西太平洋に分布。

甲斐嘉晃(京都大学フィールド科学教育研究センター)
編集長の一口コラム

マゴチ…旬なのであります。しかし、すこし前に居酒屋で食べた待望の「夏のマゴチ」は、いまひとつ旨味に欠けておりました。うーむ、旨いマゴチが食べたい! こうなったら市場で「目利き」をするしかありません。7月上旬、朝だというのに信じられないくらいの猛暑の中、再び築地市場を訪れました。マゴチを一尾買いするのはじめてです。良い個体に出会えるかしら…。
汗をかきかき市場を徘徊して見つけたのは、おなかがパンパンに張っている個体。見たところ産卵直前のメスと思われます。千葉県富津産、キロあたり1400円也。これは旨そうです。ひと目見て惚れ込んでしまい、さっそく購入することにしました。
この仲間をまじまじと見るのははじめてでしたので、最初はひととおり観察。ほんとにマゴチかしら?というところからはじめました。全身が黒っぽく、茶褐色の小さい斑点が密に並んでおります。頭部の形や棘の様子から、どうやら正真正銘のマゴチのようです。
今にもはち切れそうなお腹を捌いてみると、おおっ、いきなり! 大きな2房の卵巣が、「ぷりん」と出てきました。これは旨いにちがいない。内臓を傷つけないよう丁寧に取り出し、まずはキープです。
そして、次なるは待ち望んだ白身。わずかに透明感のある白色で、見るからに旨そうです。さっそく刺身にして食べてみますと…。非常にあっさりしていて、しかし、わずかに脂の気配を感じます。この微妙な気配がすばらしい。きちんと集中して味わわないと、見逃してしまいそうなかすかな気配ですが、やはり旨い魚です。そして、さらに冷水に晒して氷で締め、「コチの洗い」にしてみました。こちらは先ほどのかすかな脂身がさらに落ち、淡泊さにさらに拍車がかかった感じですが、何しろ猛暑。冷たい食感がなんとも心地よい夏らしい逸品になりました。
そして、最後ははち切れんばかりの卵巣と肝臓、胃袋を、醤油とみりん、お酒でさっと煮た「マゴチの珍味3点盛り」であります。この卵巣、すこし苦み走っていて、じつに渋い味わいです。一度に多くは食べられませんが、ちびりちびりと冷酒の友にするのがよいでしょう。肝臓もすこし苦み走り、コリコリした食感が素敵な胃袋と合わせ、まさに珍味でありました。
今回も、余った半身にすこし塩を振り、キッチンペーパーで丁寧にくるんで冷蔵庫のチルド室に入れておきました。寝かせること2日間。白かった身はすこし飴色になり、まろやかな旨味が出て、実に最高の味わいになりました。(編集部・K)

  • 7月上旬。早くも猛暑到来
  • 目にとまったマゴチ。おなかがパンパンです。
  • 全長53.5センチ。堂々とした個体です。
  • 属名の「Platycephalus」は、「偏平な頭」という意味であります。
  • 体中に、細かい斑点
  • 眼に1本の虹彩皮膜あり。
  • 腹面
  • 捌いたとたんに飛び出てきた卵巣
  • 半透明の美しい白身
  • 身の歩留まりは、今ひとつと言ったところ
  • かすかな旨味が最高でした。
  • 半透明で美しい。
  • 冷水に晒した「洗い」。冷たい食感が猛暑に最高です。
  • 先月のアカヤガラに続き、珍味3種盛り
  • 肝臓。意外と小ぶりでした。
  • 胃。こりこりしておつまみ向きです。
  • 2日間熟成。旨味が広がりました。