小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、
研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第20回
  • 2017年8月更新
ビワマス〜琵琶湖固有の美味なマス〜
本来は琵琶湖と、琵琶湖に流れ込む河川だけに分布するビワマス。全国的にはあまり知られていませんが、6〜7月の産卵期前に旬を迎える、旨い魚です。普段は琵琶湖の比較的深いところに棲んでいる、この「知る人ぞ知る」魚を紹介します。
※画像をタップすると拡大して見られます。
※FL…尾叉長
ビワマス 準絶滅危惧(NT) Oncorhynchus sp.

琵琶湖に降りて成長、成熟し川を遡上して産卵。産卵期は雌雄とも頭部が黒くなり、体は赤紫に暗緑色の縞模様、雄の吻は尖り、口は鉤状となる。稚魚にパーマークと朱点がある。湖内の銀白色個体は吻がやや丸く、朱点は消え、背鰭の先端は黒くない。川の砂礫中で孵化した仔魚は、卵黄吸収後の2〜4月に尾叉長2.8cmで川に浮上して泳ぎ出し、流れの緩い川岸などに生息。1か月余りで尾叉長6cm以上に成長、瀬に出て流下する水生昆虫などを活発に摂餌。尾叉長5cm以上で体側に朱点が現れ、成長とともに増え多いもので15個ほどになる。4〜7月に尾叉長6〜8cmで降雨による増水時に琵琶湖へ降下。降下時期から体の銀白色化が始まり、降湖後しばらくして体側のパーマークが消えるが、スモルト化とは異なり、海水への適応能力の上昇はない。琵琶湖の沖合には水深15m以下に周年水温20℃以下の水域が広がり、湖へ降下した幼魚は、ここで水深70mまでの層に移動して湖中生活を始める。最初は琵琶湖固有種のアナンデールヨコエビを食べるが、尾叉長17cmを越えるとアユなどの魚類を食べて、成長が速くなる。銀白色化に伴って尾叉長22cm以上で体側の朱点は完全に消失。湖中の深い層を遊泳しながら成長し、3年後に尾叉長35〜45cm、5年後に45〜55cmに成長。雌雄とも3〜5歳で成熟。成熟した個体は8月頃から婚姻色になり9〜11月に川の中上流部まで遡上、雌が直径約2mの産卵床をつくり雌雄ペアで産卵を行う。産卵後は死亡。幼魚の一部の雄(約5%)は琵琶湖へ降下せず夏以降も河川に残留、その年の秋に尾叉長11cmで成熟して、産卵に加わり、産卵後は死亡しない。また、6〜7月に河川に遡上する個体がいる。琵琶湖固有。刺網やトローリングで漁獲、美味で刺身や塩焼、フライなどで賞味される。中禅寺湖のホンマスは130年前に移植されたビワマスとサクラマス由来だが、ビワマスの特質を多くもつ。

藤岡康弘(滋賀県立琵琶湖博物館)
編集長の一口コラム

6月下旬の某日、写真家Mさんから、素敵なものが送られてきました。なんとビワマス! 基本的に琵琶湖とその流入河川にしかいませんので、東京に蟄居している小生には、ほとんど見る機会のない魚です。なんでも、琵琶湖釣行での成果の一部とのこと。ボートで深めの水深でルアーを曳くトローリングです。なんとも羨ましい限りです。
今回送っていただいたのは、生の状態の新鮮な2尾。それぞれ、全長40cm、32.5cmの比較的小型の個体。銀白色の魚体がきれいです。すでにMさんによって内臓などがきれいに処理されていました。
3枚におろしてみますと、極めて美しいサーモンピンクの身が現れました。サケ科特有の色で、透明感があり、微妙な感じに明るいピンクです。じつはビワマスを食べるのは2度目の経験。このピンクの身を見た刹那、かつて経験した甘ーい脂肪の味が脳裏に蘇ってきて、もうたまらないコーフン状態に陥ってしまいました。
さっそく刺身にしてみますと、非常に柔らかい身です。この柔らかさこそ絶妙で、口に入れますと、舌の上に「ふわっ」と着地する感じです。そして、じわーっと溶けてくる甘い脂肪の旨味。この旨味がたまらなく、飲み込んでしまうのが勿体ないくらいです。しばらく口の中に滞留させ、旨味を存分に堪能してから嚥下しました。あまりの旨さに、頭が痺れました。まさに想像通り。旬のビワマスの刺身は、絶品です! ちなみに背の肉は程よい脂が甘く、腹身は脂の乗りが濃厚で、これは好みが分かれるところです。
放心状態のなか、次なる挑戦は塩焼き。こちらも程よく乗った脂が旨く、とくに皮目は最高の旨味が出ておりました。そしてムニエル。全体に小麦粉をまぶして、フライパンでバター焼きにしましたところ、こちらは小麦粉によって旨味がぎゅっと閉じ込められ、バターの風味が加わり、さらに濃厚な逸品になりました。そして、きわめて秀逸だったのはフライ。こちらは揚げたてを頬張りましたところ、ほくほくした食感が大変すばらしく、旨味も凝縮されて、フライ料理としても極上の域。揚げたてをハフハフ言いながら堪能し、たくさん揚げましたので、塩、レモン、ソース、タルタルソースなどあらゆる味付けで楽しめました。
こんなに素晴らしいビワマスだから、熟成させたらもっと旨くなるだろうと、軽く塩をふって冷蔵庫のチルド室で2日間寝かせてみました。ところが…できあがった刺身は、あの官能的な柔らかさが抜け、ふつうの食感に。旨味も落ち、まずくはないが、期待外れのまったく残念なものになりました。「寝かせた魚は旨い」というのが、今まで私を通り過ぎて行った魚たちから得た教訓でありましたが、今回のビワマスには、なぜか全然あてはまらない結果になりました。
旬のビワマスは、とても旨い魚である。刺身も焼き物もフライも絶品。ただし、寝かせたりせず、鮮度の高いうちに食べるべし、というのが、今回のビワマスから得た経験値であります。(編集部・K)

  • こちらが送っていただいたビワマス2尾。
  • 内臓が丁寧に処理されていました。
  • 尾のアップ。基部に黒点が見られました。
  • おろした半身。
  • 明るく美しいサーモンピンクです。
  • 刺身。見るからに「ぷるん」と柔らかそうです。
  • よく見ると透明感があります。
  • 塩焼き。
  • 皮目の脂が最高でした。
  • ジューシィでほくほくです。
  • ムニエル。
  • パン粉をつけて…。
  • 揚げたてのフライ。これも絶品でした。
  • フライの断面。
  • 2日間寝かせた刺身。