小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、
研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第21回
  • 2017年9月更新
ホラアナゴ科〜200mを超える深海で、人知れず暮らすなかまたち〜
コンゴウアナゴ・イラコアナゴ
アンコクホラアナゴなど
多くは深い海に生活し、ウナギ目のなかで祖先的な位置づけのなかま、ホラアナゴ科。今回は、この一般的には「知られざる」グループの魚を紹介します。
写真/田城文人ほか
ホラアナゴ科 Synaphobranchidae

体はやや側扁し、細長い。鰓孔は体の腹面か側面の胸鰭基底下。体に鱗があるものと、ないものがいる。第三下鰓骨が前方を向き、第三角鰓骨と鋭角的に接し、ウナギ目では本科のみ。本科はウナギ目の中でも祖先的なグループと考えられている。多くは200m以深に生息し、最深はケルマディック海溝での6068m。大きなもので全長1mを越えるが、多くは全長70cm。太平洋、インド洋、大西洋から3亜科12属約39種、日本には3亜科8属12種。

※画像をタップすると拡大して見られます。
※TL…全長
コンゴウアナゴ亜科 Simenchelyinae

大西洋・インド−太平洋の温帯域に1属1種。

コンゴウアナゴ(コンゴウアナゴ属) Simenchelys parasitica Gill, 1879

口はスリット状で小さく、口裂の後端は眼の前縁に達しない。鰓孔は腹面にあり、左右は離れる。体に細長い鱗をもつ。水深136〜2620mに生息。種小名“parasitica”は「寄生」を意味し、これは本種の発見がカレイ科の大型種の体中からであったことに由来。しかし、寄生生活を示す事実はない。自由遊泳の個体が深海潜水艇調査などで撮影され、深海底の鯨類や大型魚類の死体に大量に蝟集し、典型的な腐肉食者と考えられる。ベイトトラップ式のかご網漁や筒漁で多獲されるが、なぜか底曳き網漁ではあまり漁獲されない。北海道〜土佐湾の太平洋沖、沖縄舟状海盆、九州−パラオ海嶺、大西洋・インド−太平洋の温帯域(北東太平洋を除く)に分布。

ホラアナゴ亜科 Synaphobranchinae

口は大きく、口裂の後端は眼の後縁をはるかに越える。歯骨の前端は前上顎骨の前端より前に突出する。殆どの種で両顎の歯は一様に小さい。鰓孔は腹面にあり、殆どの種で左右は接近。世界に4属約11種、日本に3属6種。ホラアナゴは分類が混乱しているので、示さなかった。

イラコアナゴ(ホラアナゴ属) Synaphobranchus kaupii Johnson, 1862

体に細長い鱗をもつ。鰓孔は前方と後方で接近。水深400〜2000mに多い。口腔や鰓腔内から大型寄生性甲殻類ホラアナゴノエが見つかることがある。世界各地から類似で同定不可能な個体群が知られる。北海道のオホーツク海沖、北海道〜九州の太平洋沖、長崎県南西部、沖縄諸島北西部、九州−パラオ海嶺、台湾南部、東太平洋を除く全世界の大陸斜面域に分布。北海道〜東北沖の底曳き網漁や深海釣りで大量に漁獲され、アナゴ類の代用として蒲焼き、天麩羅、煮付け等で食され、近年、三陸地域などで食品ブランド化されている。しかし、資源量や生態の知見がほとんどなく、適切な漁獲管理が求められる。

ソデアナゴ(ホラアナゴ属) Synaphobranchus sp.

日本産ホラアナゴ属では鱗が最大で、形は円形に近い。水深750〜1514mに生息。1000m以深に多く、採集記録は少ない。学名未詳で分類学的研究が必要。北海道釧路〜土佐湾の太平洋沖、沖縄舟状海盆、九州−パラオ海嶺に分布。

アンコクホラアナゴ(アンコクホラアナゴ属) Haptenchelys parviocularis Tashiro and Shinohara, 2014

体は柔らかく、ぶよぶよしている。鰓孔は腹面、左右はよく離れる。眼は小さく、口裂のほぼ中央。体に鱗が無く、これはホラアナゴ亜科では本種のみ。水深2830〜4866mに生息。採集記録は少ないが、深海潜水艇調査では頻繁に撮影される。伊豆諸島、小笠原諸島、紀伊半島、高知、琉球列島の沖から記録。

ソコアナゴ(ソコアナゴ属) Histiobranchus bathybius Günther, 1877

鰓孔は腹面、前方は接近するが後方は離れる。眼は口裂の中心よりも前方。体に細長い鱗がある。水深2000〜5000mに多い。東北地方太平洋沖と土佐湾から記録、北西太平洋、ベーリング海、北大西洋に分布。

リュウキュウホラアナゴ亜科 Ilyophinae

前上顎骨の前端は歯骨の前端より前に突出するか、同じ位置。鋤骨歯は主上顎骨歯より大きい。鰓孔は腹面にあり、左右は離れる。世界に7属27種、日本に4属5種。

ユキホラアナゴ(リュウキュウホラアナゴ属) Ilyophis nigeli Shcherbachev and Sulak, 1997

体に細長い鱗がある。頭部感覚管開孔数が多い。水深568〜1800mに生息。リュウキュウホラアナゴ属は一部の種を除いて各種の分布範囲が比較的狭い。北海道〜東北の太平洋沖、千島列島沖のオホーツク海に分布。

アサバホラアナゴ(アサバホラアナゴ属) Dysomma anguillare Barnard, 1923

鰓孔は側面の胸鰭基底下。眼は小さく退化的。体に鱗はない。肛門は胸鰭後端下。生息場所はホラアナゴ科の中で最も浅く、通常水深200m以浅の大陸棚上。土佐湾および東シナ海沿岸で操業する底曳き網で時に大量に漁獲されるが、食されていない。相模湾〜日向灘の太平洋沿岸、九州西岸、沖縄舟状海盆、山口県日本海沿岸、太平洋、大西洋、インド洋に分布。

田城文人(京都大学フィールド科学研究センター)
編集長の一口コラム

ホラアナゴ科…今まで全くご縁のない魚でした。クジラの死体に群がるコンゴウアナゴの写真を見て、いたく驚いたことはありましたが。基本的に深海魚でありまして、一般人には、まったく未知の魚であります。今回は、このなかまの1種、イラコアナゴです。
「ウナギやアナゴの代用品として流通しているらしい」「ツボにはまると大量に捕獲され、雑魚として扱われているらしい」「北海道ではスーパーで売られているらしい」「築地にも出ていることがあるらしい」「沖ハモ、カラスハモなどという流通名がつけられているらしい」…などなど、いくつかの情報をたどり行き着いた先は、またもや通販。いやはや通販恐るべしであります。申し込んだ翌日に、カチンコチンに凍結した北海道産の半身2枚が送られてきました。ぐるぐる巻きにして、意外と「そのまんま」な梱包であります。
頭は落とされていましたが、初めて対面するイラコアナゴ。半日かけて解凍したのち、ドキドキしながら広げてみました。波打つ背鰭がアナゴに似ていて特徴的。身の長さ63p。長い魚です。皮は少し紫がかった黒茶色。身は白く、一見して良い脂が乗っていそうです。
長い魚は骨切が必要だろうと、柳葉包丁で丹念に仕込み、蒲焼にしてみました。醤油とみりん、砂糖、酒をまぜたたれにつけて焼いてみますと、さすがウナギ目。うなぎの蒲焼のような香ばしいにおいがみるみる漂い始めました。うーん、うまそうだ。資源量が激減しているため大好物のうな丼をガマンしている、うなぎ好きの身にはたまりません。もう我慢ならぬと、少し焦げ目がついた段階でピックアップ。炊き立ての白米に乗せ、さらにたれをかけて、試食。ハフハフとひと口、ふた口。うむ、ウナギより強めの脂は無駄なにおいがなく、ふつうに旨い。とくに焦げ目は香ばしく、ちょっと脂の強いうな丼といった趣になりました。正直な感想としては、焼いた香りは抜群。身のお味は…決してまずくはないが、すごく旨いという訳でもなく…ウナギの代用品というには、少々パンチ不足か? その後、大量に身が余りましたので、鉄板焼きや塩焼き、一夜干しなど、考えつくままに試してみましたが、やはりどれも「ふつう」といった趣でした。
このイラコアナゴ、実は資源量などもよくわかっていない「未知の魚」であると聞きます。前述のとおり、東北地方の漁港などでは、ときに大量に水揚げされているという話も耳にします。このような魚は、ひとつ間違えるとあっという間にいなくなってしまい、取り返しのつかない危険を孕んでいることは、予想しうる話であります。果たして無思慮に食べてよいものか…。このようなある種の後ろめたさ、罪悪感を感じながらの「試食」でありました。この魚は、今後の調査、研究が進み、十分な資源量があることが担保されるまでは無秩序に食べず少し我慢。少し獲ったくらいでは絶滅しないくらい十分な資源量があることがわかって初めて、ウナギやアナゴの代用品としての存在になりうる魚であると、個人的に思った次第であります。食べてしまったけど。(編集部・K)

  • ぐるぐる巻きの凍結状態で送られてきました
  • 解凍して伸ばすと、このような感じ
  • 背びれがしっかり波打っています
  • 身は白く、良質な脂が乗っていました
  • まずは骨切り
  • タレをつけながら焼き、大きい蒲焼丼に
  • 脂がじゅわっと出てきました
  • こちらは塩焼き
  • 塩焼き裏面。皮目の香ばしさが特徴