小学館のWEB図鑑Z「日本の魚とはどのようなものか」 〜The Natural History of the Fishes of Japan〜 編・監修/中坊徹次(京都大学名誉教授) 写真/松沢陽士ほか
知っているようで、じつは知らない事の多い魚の世界。
このWEB図鑑では、知られざる魚の姿や生態を、
撮り下ろしのスペシャルフォトと、研究者が書いた最新の解説文で徹底紹介します。
魚に関する、とっておきの蘊蓄が身につきます。
  • 第5回
  • 2016年5月更新
クサウオ〜ゼラチン様の層をもつ魚〜
クサウオ・エゾクサウオ
イサゴビクニン・アバチャン
皮下にゼラチン様の層をもち、ぶよぶよで柔らかい体が特徴的な、クサウオのなかまを紹介します。不思議な形と色をもつ魚「アバチャン」の最新情報も!
写真/東海林明ほか
クサウオ科 Liparidae

体は柔らかく、鱗がなく滑らかで、皮下にゼラチン様の層がある。背鰭と臀鰭の基底が長く、後端は尾鰭と連続。頭部や体、背鰭、臀鰭に微小棘のある個体が見られるが、脱落しやすい。どの個体も生時はこの微小棘があるか不明。潮間帯〜水深8000mの岩礁や砂泥底、底層から離れた少し上の層に生息。腹鰭が変化した吸盤で岩などに張り付く。ただし、生息場所が底層から離れるに従って吸盤は小さくなり、消失。寒冷海域を主に世界で30属約420種、日本は11属56種。

クサウオ属 Liparis

頭部はやや縦扁、体は尾部へ向かって側扁。吸盤はよく発達。皮下のゼラチン様の層は薄い。種によって性的二型や色彩変異がある。体の後半を巻く習性がある。体長数cm程度〜60cm。約70種、北太平洋に多く生息。日本に11種。クサウオ科の中では比較的浅い水深に生息。

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※SL…標準体長
クサウオ Liparis tanakae (Gilbert and Burke, 1912)

胸鰭下部の軟条は伸長せず、胸鰭後縁は丸みを帯びる。尾鰭基部に明瞭な白色線がある。エビジャコ類を中心に甲殻類、魚類を捕食。産卵期は冬、能登島や仙台湾では産卵のため接岸。径7〜13cmの卵塊をロープや海藻に産みつける。卵は径1.7〜1.8mm。孵化後、体長4.8〜5.5mmで浮上と沈下を繰り返す。体長約10mmで吸盤ができて、約20mmで稚魚になる。仙台湾では孵化後の5月までは水深25m以浅、成長して水深100m程の深場へ移る。体長組成からの推定で仙台湾では寿命が1年、瀬戸内海では2年以上と考えられている。北海道奥尻島〜山口県の日本海沿岸、北海道〜紀伊半島の太平洋沿岸、紀伊水道、瀬戸内海、豊後水道、朝鮮半島南岸・西岸、黄海、渤海、中国東シナ海沿岸に分布。韓国では干物にして保存、蒸す、煮付、汁もの等、特に冬に賞味される。刺身で食べられることもある。日本では福島県の一部でおろし和え、煮付け、卵巣の醤油漬けで食される。

エゾクサウオ Liparis agassizii Putnam, 1874

胸鰭下部の軟条が伸長、胸鰭後縁が切れ込む。鰓孔下端は胸鰭第5〜12軟条に達する。雄は背鰭前端付近に切れ込みがある。100m以浅に生息。ピーター大帝湾〜サハリンと石川県以北の日本海沿岸、茨城県〜北海道の太平洋沿岸、北海道オホーツク海沿岸に分布。

イサゴビクニン Liparis ochotensis Schmidt, 1904

胸鰭下部の軟条が伸長、胸鰭後縁が切れ込む。鰓孔はエゾクサウオよりも大きく、下端は胸鰭第11〜18軟条に達する。体の模様は変異が多い。上記2種に比べ、皮膚が破れやすい。水深0〜761m(主に50〜200m)の砂泥底に生息。日本海、オホーツク海、青森県太平洋沿岸〜千島列島、ベーリング海西部に分布。

スイショウウオ属 Crystallichthys

体は側扁し、柳の葉状。皮膚は半透明で淡い桃色。吸盤はよく発達する。北太平洋および縁海の大陸沿岸に4種が生息。

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※SL…標準体長
アバチャン Crystallichthys matsushimae  (Jordan and Snyder, 1902)

吻部と両顎に多数の肉質のひげがある。皮下のゼラチン様の層は厚い。吻が短く丸い個体と長く尖る個体がいる。大陸棚縁辺の砂泥底に生息。本州と朝鮮半島東岸中部〜間宮海峡を経て北海道の日本海沿岸、北海道〜千葉県銚子の太平洋沿岸、北海道オホーツク海沿岸〜千島列島をへてカムチャッカ半島南東岸に分布。赤色円斑型と黄色虫喰状斑型がおり、体の大きさ、胸鰭・背鰭・臀鰭の軟条数と脊椎骨数に違いがあり、遺伝的にも異なる。卵径はどちらも4mm。
赤色円斑型:体全体に明瞭な赤色の円形斑紋(頭部と鰭では棒状の個体もいる)を持つ。大型個体では斑紋の中央部の赤色が薄く、ドーナツ状になることもある。体長36cm(通常21cm)。水深30〜700m(主に200〜300m)の砂泥底に生息。朝鮮半島東岸中部、沿海州〜間宮海峡をへて北海道の日本海沿岸、サハリン南部〜北海道のオホーツク海沿岸、北海道〜千葉県銚子の太平洋沿岸に分布。
黄色虫喰状斑型:体に黄色く細い虫喰状の斑紋が散在する。体長21cm(通常12cm)。水深170〜342m(主に200m〜300m)の砂泥底に生息。本州日本海沿岸に分布。

東海林明(京都大学農学研究科・現京都府水産事務所)
編集長の一口コラム

韓国の釜山に、「チャガルチ市場」という巨大な魚市場があります。港に面した卸売市場を中心に、一般向けの魚の小売屋、レストラン、一杯飲み屋などがひしめき、魚のプロ、地元の人々、観光客が行き交う混沌とした「魚ワールド」が広がっています。

そのチャガルチ市場の一角に「クサウオ屋」をみつけました。ディスプレイの水槽には生きたクサウオが展示され、この魚の料理を出すレストランであることがひと目でわかります。思い切って入ってみることにしました。

まずは刺身を注文。白身で、魚の見かけ通りぶよぶよした印象。そしていかにも水っぽそうです。口に入れると…予想通り水っぽい。決してまずくはないのですが、味も薄く、食べ続けていると「水腹」になってしまいそうな刺身です。

続いて出てきたのは「クサウオ鍋」。金属製の大きな鍋に、ネギ、ミツバなどと一緒にグツグツ煮たてられて出てきました。これを小皿にとっていただくのですが、熱の通った身はしっかりし、淡白で上質なおいしい鍋でした。少し大味な「ふぐちり」に似ているかもしれません。あっさりしているのでどんどん食べられるのですが、何しろ大量の身が入っているので…(写真の鍋で2人前!)平らげるのが大変でした。

市場の路端にはクサウオが丸ごと干された干物屋などもあり、買って食べてみたくなりましたが、個人で買うには大きすぎて断念。これは次回のお楽しみということで…。(編集部・K)

  • 水揚げされたクサウオ
  • レストランの水槽ディスプレイ。水族館でも見たことのない、「生きたクサウオ」が!
  • クサウオの刺身。見るからに水っぽそうです。
  • これがクサウオ鍋。意外と(?)身がぷりぷりしていておいしかったです。
  • この巨大な干物は、どうやって食べるのでしょう…。